2022.12.06メールマガジン
拮抗している学生のキャリア観
この数年、日本型雇用からの脱却を後押しするように、ジョブ型導入の報道が目に付きます。こうした動きを、学生はどのように受けとめているのでしょうか。そもそも学生は、どんな働き方を望んでいるのでしょうか。学生アンケートの結果を、筆者なりに解釈してみました。
日本でジョブ型雇用と呼ばれているものの大半は、欧米のそれとは異なり、職務給で給与が変動するジョブ型人材マネジメントを導入したものです(以下、日本版ジョブ型)。職能給を中心としたメンバーシップ型雇用とは、どんな働き方の違いがあるのか。就労経験のない学生が、リアルに理解するのは難しいでしょう。そのため、雇用制度の名称は出さずに、それぞれの特徴的内容を示し、どちらを望むのかを尋ねてみました。
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【メンバーシップ型とジョブ型の働き方】
A:異動や転勤の可能性はあるが、定期昇給していく働き方
B:職種は限定で異動や転勤もないが、評価によって給与が上下する働き方
(弊所『新卒採用戦線総括2023』より)
51.5% A+どちらかといえばA(メンバーシップ型)
48.5% B+どちらかといえばB(日本版ジョブ型)
(最多は「どちらかといえばB」で34.5%)
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<学生コメントと解釈>
「人事評価が正しいとは限らないので、定期昇給の方が安全」
「特定分野に強みを持つプロフェッショナルになりたい」
「一定の給与保証があれば、給与を上げるよりも転勤がない働き方を望む」
わずかにA(メンバーシップ型の働き方)が上回りますが、両者は拮抗して
いることが分かります。最も多くの学生が支持したのは「どちらかといえばB
(日本版ジョブ型の働き方)」で、約3人に1人が選択しています。
2つをミックスさせた「望まない異動や転勤を避けつつ、金銭的な保証がある
働き方」を望む気持ちが強いようです。
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【ジェネラリストとスペシャリスト】
A:異動を含むジョブローテーションがある(総合的に広く浅く)
B:異動のないスペシャリスト(狭く深く)
(弊所『(24年卒)月例・学生アンケート10月』より)
50.2% A+どちらかといえばA(ジェネラリスト)
49.8% B+どちらかといえばB(スペシャリスト)
(最多は「どちらかといえばB」で39.5%)
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<解釈>
ほぼ1対1に分かれました。仕事をした経験がないので、自身の業務適性に
確信のある学生はほとんどいません。「入社時の配属ガチャは不安だけど、
自分に向いている仕事を見つけるためにジョブローテーションは必要」と
考える学生が半数。「仕事や住む場所が変わることは避けたいので、スペシャ
リストとして身を立てたい」という学生が半数。
最多は「どちらかといえばB」で、約4割を占めました。安定した生活を望む
気持ちが強いと言えます。
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これらの拮抗した働き方とは異なり、圧倒的に支持が偏っている項目も
あります。
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【コミュニケーションの多い職場と少ない職場】
A:職場内のコミュニケーションが多い
B:職場内のコミュニケーションが少ない
(弊所『(24年卒)月例・学生アンケート10月』より)
82.3% A+どちらかといえばA(コミュニケーション多い)
17.7% B+どちらかといえばB(コミュニケーション少ない)
(最多は「A」で49.0%)
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<解釈>
若者の生活スタイルについて調べた「若者の生活と意識に関する全国調査」
によれば、「友だちとの関係はあっさりしていて,お互いに深入りしない」が
年々増加しています。(2022年46.2%→2012年51.5%→2014年57.6%)
筆者が日頃から接している学生を見ても、人間関係は淡泊になっているように
感じます。にもかかわらず、8割以上がコミュニケーションの多い職場を望む
という結果になりました。
きっと理想的な人間関係を求める気持ちが、結果に反映されたのでしょう。
「コミュニケーションが多い≒良好な人間関係が築けている」職場ということ
です。人間関係に苦手意識があるからこそ、すでに良好な人間関係の職場を
望む気持ちが強いのでしょう。
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アンケート結果からは、それぞれの価値観にもとづく「経済的安全性」や「心理的安全性」を求める気持ちを感じます。就職活動は1年近い時間をかけた長期戦となっています。モチベーションを維持するためにも、働くことへの不安を早いうちから払拭していくことが大切でしょう。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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