2020.12.22メールマガジン

With コロナ時代で22卒採用はどうなる

コロナ収束の見通しがつかない現在、22採用がどうなるのか全く予想できない。それでも多くの企業は、すでに夏インターンシップを終えて22卒の採用活動をスタートさせた。どの企業も来年の4月以降には、コロナ汚染が抑制され、経済活動が正常化するだろうと思っているからだ。

本メルマガもそうした希望的な見通しを前提に22卒の採用を展望してみよう。

◆採用計画が立てられない
21卒の採用では、航空、旅行、レジャー、宿泊などコロナ禍の直撃を受けた業界が、採用活動の途中で急遽、大幅採用減や採用中止、内定取り消しなどを行ったが、これら業界以外の企業は、当初の採用計画を変更することなく、採用活動を終えた。

しかし22卒の採用活動に取り組み始めた9月中旬時点からは一転、採用計画未定とした企業が52%と急増した(経団連調査)。その後、年末にかけてコロナ汚染がさらに拡大、今後も収束が見えないことから多くの企業は、いまだに明確な採用計画を立てられないのが現状だ。

◆採用スケジュールは暗中模索
採用計画が未定でも採用活動は、現在、昨年と同じペースで進行している。夏インターンシップを終え、業界セミナーや就職支援の採用インベントは、ほとんどがオンラインだが、企業と学生との接触もゆるやかに進行している。これから始まる22卒の採用では、従来の経団連の採用指針が廃止されたので、企業は、独自の採用フローで早期から活動してよいのだが、実際には、そうした動きは見られない。

前述のようにコロナ禍の見通しが不明で明確な採用計画がないまま採用活動をしているからだ。そのため多くの企業の採用活動は、当面、オンラインによる採用広報活動を行い、3月から会社説明会、4月から面接開始、6月には内定出し、7月に採用活動終了という昨年同様のスケジュールを設定している。

だが、それはコロナ次第。少しでもコロナが抑制されれば、対面型の接触が復活し、採用活動は過熱化、早期化する。もしコロナが抑制されず、より深刻な事態になれば、多くの企業の採用活動は、凍結されることもあるだろう。これから来年の3月までは、どの企業も暗中模索の採用活動になりそうだ。

◆通年採用は、増加するが分散型に
経団連が提言した通年採用は、大学1~3年生への早期アプローチを可能にするものだが、22卒の採用では、コロナの感染状況を考慮した分散型の通年採用が増えそうだ。採用選考を春と秋の2回あるいは年4回に分散するという採用だ。

この動きは、すでに今年の秋に次年度の採用方式として銀行や大手メーカーが取り組むと公表している。コロナ禍のもとでの採用方式として柔軟性があるので同調する企業が多くなりそうだ。

◆採用イベントが変わる
オンライン採用は、すでに9割の企業が導入しているが、その多くはコロナ回避のために急遽導入されたものが多く、内容をみると撮影した画像をそのままオンラインで流すものや、一方的に企業側から説明するだけのものが目に付いた。当然、学生からの不満は多い。

この反省から22卒のオンライン採用では、内容のレベルアップとともに通信の安定性や操作方法の改善、AR、VR、MR(複合現実)など先端的な画像技術の意欲的な導入がみられるだろう。これによって学生は職場のリアルな人間関係や社風、働くことの魅力を疑似体験、ミスマッチのない企業選択をすることができるだろう。ここ数年、HRテクノロジーの発展は目覚ましく、コロナ禍の中でこうした企業情報や採用イベントの革命が進むことが期待されている。

◆選考方法が変わる
21卒の採用では、採用広報や採用イベントだけでなく、面接試験、能力・適性検査、グループディスカッションなど選考方法もオンライン化した。なかでも面接試験のオンライン化は、急拡大し、最終面接までオンライン化する企業は6割に達した(経団連調査)。そうした動きのなかで、面接での質疑応答だけでなく、学生の表情や動作などを”見た目“の印象でなく科学的に評価する方法も模索されている。それがAIによる選考だが、コロナ感染が収束しない限り、22卒採用ではオンラインでの面接だけでなくAIを組み込んだ非接触型の面接選考が増えるだろう。

しかし、AI選考には課題もある。多くの学生を短時間に公平に選考できるが、その選考基準は画一的ではないのか、本当に公平に選考できるのか、人間味のない採用選考が学生に受け入れられるのか、などという問題である。22卒の採用活動の中でどれだけこれらの課題や不安が解決されるのか注目される。

◆大学キャリアセンターの役割が重要になる
企業の採用活動がオンラインで行われるようになった動きを受けて大学の就職支援も面接などのオンライン選考対策が緊急の課題となった。企業も学生も経験のない事態だったが、大学と学生たちは、この転換を案外、スムーズに乗り切った。学生にPCやスマホのリテラシーがあったからだ。22卒の採用では、企業のオンライン選考が一段と進むことから大学のオンライン選考対策は、さらに充実するとみられるが、今後キャリアセンターは、就職試験対策だけでなく、次にあげるようなきめ細かい就職支援、就職情報提供、個人情報の保護などがオンライン時代の役割として重要になるとみられている。

まず第一が、学生たちの就職支援センターとしてきめ細かい支援が、これまで以上にできるということだ。大学主催のオンライン就職講座や会社説明会に学生たちがキャリアセンターのポータルサイトから登録、参加することで大学は、個々の学生の就職講座や説明会への参加状況、企業への関心度、就活準備状況、企業への応募状況、就職活動の経過と結果、就職に関する悩みなどを一元的に把握できることになる。

これによって大学は、個々の学生の就活状況を見ながらに適切でタイムリーなアドバイスをすることが可能になったのである。これは大学ばかりか学生にとっても利便性の高いものといえよう。

第二にあげられるのが、情報源としてのキャリアセンターの役割充実だ。大学には企業研究のための企業情報は従来から豊富にあるが、これまで学生の利用率は低かった。しかし、これからは学生は大学のポータルサイトに、気軽にアクセスして企業研究ができるようになる。大学が検索方法を簡素化すれば、日経新聞や東洋経済、シンクタンク、新聞各社の企業に関する各種統計や最新記事を、オンラインで日々提供することが可能になった。

これまでキャリアセンターに顔を出したり、資料を探したり相談したりすることのなかった学生たちも、オンラインなら在宅で積極的に企業研究を深めたり、気軽に就職相談をしたりするようになるだろう。このほか、手書きの報告書として閲覧されていた過去の就活体験記や先輩名簿もデジタル化されるので、大学のポータルサイトの利用率が高まるのは間違いない。

三番目は、学生の就職支援に伴う個人情報を保護する役割である。学生個人の就活情報がキャリアセンターによってデータベース化されることで懸念されるのが、個人情報漏洩やハッキングである。最近では、新たな試みとして大学が学生の就活情報だけでなく、学業成績やサークル活動、学生生活の成果をポートフォリオとして作成、大学のキャリアセンターに登録させ、それを大学に求人登録した企業に限定して閲覧させる動きがあるからなおさらだ。

もちろん、この就活支援システムではブロックチェーンを活用して学生の個人情報を暗号技術によって保護することになるが、その徹底がキャリアセンターには、強く求められることになるはずだ。オンライン時代だからこそ学生たちのキャリアセンター利用率が上がるが、それだけにその役割は、大きく重要になってきた。

◆新しい採用
コロナ感染が蔓延する21採用のなかで新しい採用は登場したのだろうか。注目されたのは一昨年、経団連から提言された通年採用だったが、今年の9月までに取り組んだ企業は、16%程度だった(経団連調査)。その伸びは少なかったが、前述のように分散型の通年採用は増加する気配だ。注目したいのは通年採用に踏み切った企業の多くが金融や大手メーカー、メガベンチャーだった。

しかも、その対象者はグローバル職や高度専門職(財務、会計、法務、統計)、IT技術者(データサイエンス、サイバーセキュリティ、DXビジネスなど)で、ジョブ採用の色彩が強いことだ。これらの企業の採用では、すでに学歴別初任給は撤廃、本人の役割やジョブに応じた高額の報酬で採用している。

このように22卒の採用では、採用力のある企業が通年採用とジョブ採用を結合させてコアな人材を早期に確保するという新しい通年採用が台頭することが予想される。

また、コロナ感染を回避しながら個別に人脈を介して紹介型の採用選考をするリファラル採用も少しずつだが増えている。関心を持っただけで応募する多くの学生に対面型あるいはオンラインでの面接を繰り返し選考することでなく、優秀な社員や内定者などの紹介によってピンポイントで採用選考をするリファラル採用は選考フォローも短く、ミスマッチを避けられる採用方式なので、ここ数年、少しずつだが増えている。

このほか、多くの学生を集めて一斉に自社の求める人材を採用選考するという「待つ採用」でなく、自社が求める人材をネットや各種人材データベースから探し出し、企業からアプローチする「攻めの採用」であるダイレクトリクルーティングを試みる企業も現れた。これらの採用方式は、どれもコロナを回避するということでなく積極的に人材を採りに行くというこれからの新しい採用といえるだろう。

こうして21採用から22採用への動きを見ていくと、コロナ汚染の中で日本的な新卒採用の枠組みが、徐々にそして急速に崩れてきていることがわかる。(夏目孝吉)

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