2020.12.08メールマガジン

通年採用への移行は緩慢

前回は、当社の調査(*1)から21採用を総括したが、そこでは通年採用については、「実施企業が8.3%から14.7%に増加、通年採用時代の到来」と指摘するにとどめた。しかし、経団連が2018年10月、これからの採用方式として指針の廃止とともに一括採用から通年採用とジョブ採用への転換を提言してから2年が経ったが、企業の通年採用は、経団連の期待通りに拡大、普及していない。あらためて通年採用の現状と今後の課題などを取り上げてみよう。

■通年採用の実施率は、2割弱
経団連の高らかな提言があったものの通年採用に取り組む企業の動きは緩慢だ。昨年からの動きを当社調査で見ると通年採用を実施している企業は、前述のように昨年より増えたものの数は多くない。話題になっている割に伸びは、少ない。むしろ注目されるのは、「実施する予定はない」と流れに逆行する回答をした企業が昨年の24.4%から32.6%に増えていることや「検討中」という回答が37.9%もあったことだ。様々に検討した結果、まだ、通年採用導入に踏み切れない企業が多いというのが現状だ。
この結果は、今年の9月に発表された経団連の大規模な「新卒採用調査」(*2)でもほぼ同様で、通年採用の実施率は、16.5%だった。これが通年採用の現状である。

■通年採用とは、「3年生向けの早期の採用活動」
ところで新卒者の通年採用といったとき、その採用対象者は、誰か、本来は、「新卒予定者に年間を通じて随時、採用活動を行うこと」ということだが、企業によって相当な幅がある。現在、新卒の通年採用を実施している企業の場合、新卒予定者だけでなく、既卒者も卒業後3年以内なら新卒者の枠で採用している。既卒なのでいつでも採用選考をしてもよいのだが実際には、年数回に分けて募集したり、新卒予定者と同じ選考フロー(3月選考開始、6月内々定)で募集したりしている。

その一方で、大学2年生や3年生を通年採用の対象にする企業もある。通年でなく、通学年採用といってもよい。優秀なら大学低学年でも採用、入社(予約を含む)させるというのである。もちろん採用ルールとは無関係だから優秀人材を早期に確保したい人気企業や採用力のある企業にとって圧倒的に有利な採用方式となっている。その一方、採用力の弱い企業にとって通年採用は、救済策として機能する。採用計画を充足するまで通年で採用活動を継続できるからだ。

このようにポジテイブな通年採用をする前者と後者のように補完的な通年採用をする企業が混在しているのが通年採用の内訳だ。そこで当社の調査をみると、多くの企業は、通年採用とは、「3年生向けの早期の採用活動」という理解のようだ(33.9%)。これは、実態から言えば「3年生秋以降」と読み替えることができる。これに対して「低学年からの採用活動」と回答した企業は、14.3%だった。これは、IT企業やベンチャー、急成長企業などが現在、取り組んでいる通年採用で、大学1、2年生までも対象とする採用だが、予想外に少ない。企業が大学教育を尊重したわけでもないから、多くの企業にとって採用効率が悪いということなのだろう。つまり現状では、通年採用といっても極端な早期化をしている企業はまだ少ないということになる。

■大企業や就職人気企業しか導入できない
通年採用のメリットといえば、年間を通じて採用活動ができるので丁寧な採用選考ができる、早期に優秀な人材を確保できる、採用計画の変化に対応できる、などがあげられるが、経団連の強い推奨、提言がありながらも通年採用に踏み切らない企業が多いのは、なぜだろうか。当社の調査で通年採用のデメリットを企業に聞いたところ、次のような問題点を指摘する声が多かった。

1. 採用活動が長期化、分散化するので効率が悪い
2. 採用内定者の入社も通年化しないと内定辞退に対応できない
3. 人物の相対評価ができないので採用基準の客観化が難しい
4. 募集や選考が通年化するので採用関係者の人員配置やコストがかかる
5. 応募締め切りがないので待っていては、応募者数が読めない

どれも採用体制の弱い中堅企業や知名度、就職人気のない企業にとっては、採用効率が悪く、対応する体制づくりが難しく、通年採用導入に躊躇することになる。そうなると、この通年採用は、採用体制の充実している大企業や就職人気のある企業だけが年間を通じて人材を独占することになる。

■3年後は、「全体は一括、一部が通年採用」
このように通年採用は、大手企業や就職人気企業を除く多くの企業にとっては、メリットはなく、採用費用が増加し、マンパワーの負荷が多くなり、採用できる確信も持てないので通年採用は広がりそうにないということになる。そうした企業の疑問や戸惑いを鮮明に示しているのが「3年後の新卒採用予想」という当社の調査。コロナ汚染の収束が見えない現在、来年以降の通年採用がどうなるかは、不透明だが、22卒採用が始まった7月時点での見通しということで見てみよう。

この調査によれば、3年後の企業の新卒採用活動では、「通年採用が中心」と回答した企業は、わずかに0.9%、「一部一括、全体は通年採用」と回答した企業は、3.1%、「一括と通年は同じ比率」でも5.8%だった。これに対して「従来通り一括採用」12.9%、「全体は一括、一部通年採用」は61.2%を占めていた。3年後においても新卒採用は、依然として通年採用が圧倒的多数ということのようだ。この見通しについては、経団連調査でも、「今後5年程度の通年採用の方向性」ということで聞いていたが、「現状程度」が11.1%、「増やしていく」が17.7%と伸びは鈍い。むしろ、この調査で注目されるのは「未定」と回答した企業が69.3%を占めていたことだ。経団連傘下の企業でも、経団連が提言した通年採用の導入を決めかねている企業が7割もいるのが実情だ。

■一括採用からの脱却は、遠い
これら2つの調査を見てもわかる通り、通年採用の前途?は厳しい。もともと経団連の通年採用とは、企業のグローバル化やIT時代に対応した人材戦略という高邁な理念を掲げながらも長年続いた採用活動の混乱、指針の形骸化に匙を投げ、企業の良識に採用活動を委ねるというプロセスで提言されたものだった。そのため新卒の一括採用が企業や大学、学生にどれだけの弊害があるのか、なぜ、改革するのかが曖昧なままだった。今一度、それぞれの立場で通年採用に移行するメリットや移行にどれだけの困難があるのか、企業の採用体制の見直し、通年採用を受け入れる人事制度や処遇の整備、大学の国際化や教育改革の方向などを再確認してみる必要がありそうだ。(夏目孝吉)

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*1 企業採用動向調査 文化放送キャリアパートナーズ 2020年7月
*2 新卒採用活動に関するアンケート結果 日本経済団体連合会 2020年9月

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