2020.06.02メールマガジン
注目される大学の採用動向調査
新型コロナの感染拡大により21卒の採用が大混乱となって3か月、緊急事態宣言が解除され、徐々に企業の活動が再開、大学にも学生たちがポツポツ戻ってきた。しかし、就職情報が解禁され、企業と学生との接触が始まる矢先での活動制限は、就活学生を不安に陥れ、企業の採用活動を大きく変えた。こうした学生の就活調査は、当社をはじめ各就職情報会社から発表されているが、今回は、大学側から企業の採用活動をアンケートした調査を紹介しよう。
これは、千葉商科大学(千葉県市川市)が行った調査で、「就活生の不安解消と具体的な行動につながる情報発信を」ということで実施されたものだ。この調査(以下、本調査と略)を大学閉鎖中に企画、実施した同大学の意欲的な姿勢は評価できる。
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【本調査の概要】
調査名:21卒の採用動向、22卒対象のインターンシップ予定
調査時期:2020年4月16日~4月23日
回答企業数:同大生の就
職先企業724社
調査部門:千葉商科大学 キャリア支援センター
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本調査の要旨を紹介しよう。
1.コロナ汚染の中でスケジュール通りの採用活動をした企業が3割
本調査では、最初に、コロナ汚染によって企業の採用活動が、どれだけ影響を受けたのか、を聞いている。コロナ汚染が拡大し始めたのが3月上旬。就職情報が解禁され、大規模な合同説明会、大学の学内説明会などが一斉にスタートする矢先だった。それだけに、この質問に対しては、68.8%の企業が「スケジュールを遅らせた」と回答している。採用活動への影響が大きかったのである。
そして4月7日からは緊急事態宣言が発動され、企業にとって暗中模索の採用活動となった。この間、多くの企業は、オンラインによる説明会や面接というコロナ回避の採用活動に切り替えて採用活動に取り組んだが、ペースダウンしたのは当然だった。だが、ここで注目されるのが「スケジュール通り」と回答した企業が28.5%もあったことだ。21採用は、早期化が予測されていただけに大手企業は、採用活動を先行していた。具体的には、昨年夏から年末にかけてインターンシップ参加学生を継続的にフォローしたり、社員との懇談会を頻繁に開催したりして、1月下旬には、すでに面談寸前だった。
そのため、こうした企業は、2月からは、多人数を集める採用活動でなく、多様で小規模な採用手法(質問会、ワークショップ、冬インターンシップなど)に取り組んでいた。緊急事態の中でも「スケジュール通り」に採用活動を継続できたのは、こうした成果だろう。
そして緊急事態宣言から1か月半、解除された現在、採用活動を中断していた企業が、一斉に採用活動を再開、6月から7月にかけて順次、最終選考を実施すると学生に告知している。これからの動きを見ると大手企業の採用活動は途中、「やや遅れた」ものの先行していた企業が多く、最終的には、「ほぼスケジュール通り」となりそうだが、年明けから採用活動を開始した企業や、コロナ汚染で採用活動を中断した企業は、大きく出遅れたことになり、そのハンディを挽回するのはもはや難しそうだ。
2.9割が採用計画に変更なし
今回のコロナ汚染が世界経済や日本経済に与える影響は甚大で、3月以降、日々、その深刻さが報じられている。そのため大学や就活中の学生たちが、心配したのは企業の採用中止や採用計画縮小、内定取り消しだった。
しかし、本調査でも明らかなように4月の時点では、「採用人数は予定通り」という心強い回答が89.6%もあった。当時、すでに中堅、中小企業あるいは飲食、宿泊、旅行関係では内定取り消しや採用中止が報じられていたが、大手企業については、内定取り消しの事例はなく、航空関係の自宅待機が目に付いたぐらい。これほどの打撃を受けながらも多くの企業が、「採用人数は予定通り」と回答していたのである。
企業が不況になっても新卒採用を継続する理由はなぜか。よく言われるのは、バブル崩壊後やリーマンショック後に企業が新卒採用を抑制したため企業の成長が遅れたという反省である。それ以降、新卒採用は長期的に継続的に採用していく人材戦略が定着したという。それも大きな理由だが、今年の場合、大手企業の採用活動がすでに最終段階に入っていたからだ。それとコロナ汚染の打撃がどれほど企業にとって深刻なのか、4月時点では、まだ十分に読めなかったことである。さらにいえば、企業がいまだに新卒一括採用のスケジュールから脱し切れていなかったことも背景にあった。
しかし、この心強い採用方針は、その後、動揺している。本調査後の5月上旬に実施された共同通信社の「21年度主要企業採用計画調査」によれば、採用方針について「前年度並み」とする企業は、36%、「増やす」が9%、「減らす」は26%、「未定」が25%と報じている。対象企業や質問の内容がやや違うが、明らかに企業の採用方針は、この1か月間の急速な環境変化と今後の大不況を反映するものとなった。当初の採用計画を急遽、抑制する姿勢に転じたのである。企業によっては、6月からの採用活動を再開しないで、このまま終了する企業も出かねない様相だ。もちろん、これからスタートする22卒の採用計画などは、日本経済が回復するまで3年といわれているだけに予測もつかないことになった。
3.WEB説明会、WEB面接でコロナ回避
オンラインによるエントリー画像提出や企業説明会、採用面接は、数年前から普及していたが、今年は、コロナ汚染回避の採用活動として一躍、脚光を浴びてオンラインによる説明会、面接を導入する企業が急増した。
本調査では、WEB説明会を実施したと回答した企業が50.7%、WEB面接を実施した企業が44.1%と半数の企業が実施したと報告している。たしかにコロナ汚染を契機にオンライン採用は、急速に普及したが、ここでは、「WEBは活用していない」という企業が、43.6%あったことに注目したい。WEBによる企業情報の提供や採用選考に不信、不安を持っている企業が半数近いのである。
まだ採用活動が終わっていないのでWEB採用の評価は定かでないが、リアルな採用活動を重視する企業が少なくないことも記憶しておきたい。コロナ汚染が収束すれば、リスク回避と採用選考の効率化というWEB面接は減るのではないか。採用効率だけでなく、優秀な人材を見出し、ミスマッチを防ぐリアル面接のメリットを重視する企業がまだまだ多いからだ。
4.内定提示時期は6月がピークだが
本調査は、企業の採用活動終了ともいえる内定提示時期を聞いている。その回答は、5月が44.8%、6月60.6%、7月51.2%という。つまりコロナ汚染の最中でも多くの企業は6月で採用活動のヤマは超えるとみていた。しかし、その見通しにも迷いが見られる。8月が40.9%、9月35.5%、10月以降でも27.2%とある。コロナ汚染の影響で採用活動が長引くと予測している企業が少なくない。
なお、当社が、学生に聞いた就職内定率は、コロナ汚染があっても3月下旬19%(昨年14%)、4月上旬34%(昨年25%)、4月下旬50%(昨年42%)と昨年より早いペースで進んでいる。このペースに乗り切れない企業が、夏以降も採用活動を続けるのだろう。
5.インターンシップの予定は、昨年同様だが
興味深いのが企業のインターンシップへの取り組みだ。21卒の採用ではコロナ汚染のなかで採用活動が継続できたのは、インターンシップ参加学生を継続的にフォロー(囲い込み)して採用の軸にしていた企業だった。それだけにコロナ汚染の再燃が危惧される次年度の採用ではインターンシップの重要性がますます高まるのは確かだ。
そこで、本調査の「インターンシップの実施予定時期」に対する回答を見てみよう。コロナ汚染の収束が見えない時点での調査だったが、多くの企業が、昨年同様の8月実施を予定している。今年の8月にはコロナ汚染が収束するとみているからだろう。その数字は、34.5%。以降、9月が29.1%、10月14.6%、11月18.9%、12月27.1%と昨年どおりの開催ペースだ。採用直結の色彩の強い冬インターンシップも積極的で、1月29.0%、2月34.1%と盛り上がり、3月以降は4.1%と回答している。だが、こうした楽観的な回答とともに見落とせないのは、46.7%の企業が、「その他」と回答していることだ。コロナ汚染の収束状況あるいは再燃との関係で時期が読めないからだろう。
このように本調査は、企業の採用活動がコロナ汚染により大きく影響を受け、採用選考の多くがWEBに代替されて大手企業の採用活動のスケジュールが、ほぼ予定通り進行、一方で出遅れた企業の採用活動が昨年以上に長期化すると指摘、その一方で22卒の採用の準備であるインターンシップは、昨年並みの日程を予定しながらもコロナ汚染再燃に怯えながらすべてが混とんのなかでスタートしようとしていることを明らかにしている。
本調査の狙いと結果について千葉商科大学の川瀬功キャリア支援センター長は、「半年先、1年先を見通し、適時適切な対策を講じ、後手にならないようにと思っています。今期も間違いなく長期化すると思いますが、怖いのは採用休止企業が続出することです。だから6月以降の景気動向が気になります。株主総会後に局面が変わるかもしれません。 その時の対策も考えておかなければなりません」という。(夏目孝吉)
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