2020.04.21メールマガジン

企業クチコミサイトの利用は限定的

年明けとともにスタートした21卒採用は、すでに最終局面に入っている。当社の調査によれば、内定保有率は、3月下旬で32.1%に達し、昨年比17.6%増と大きく伸びた。コロナ汚染急拡大で、企業の採用活動は、リアルな合同説明会が相次いで中止されたもののオンラインによる会社説明会、面接がそれらに代替することで採用活動は、予定通り継続され、3月からは、対象者を絞り込んでのリアル面接が繰り上げ実施された。

その結果、21卒の採用活動は、オリンピック対応どころか、コロナ汚染という別の理由で採用活動が一気に前倒しされることになった。だが、この早期化は、企業にとっても学生にとっても懸念を残すことになった。コロナ汚染回避ということで学生は、就活が大幅に制約されたため十分な企業研究を行わないままに志望先を決め、企業も綿密に学生と面接をすることなく内々定を出すことになったからだ。

▼リアル情報が後退して企業クチコミサイトの利用が急増
こうした環境激変のなかで今年は、学生たちの就活が、大きく変わった。リアルなセミナーに参加したり若手社員や採用担当者と面談をしたりして企業の魅力や社風を理解することが少なくなり、学生は、就職サイトで企業研究をしたり、ネット上に氾濫する種種雑多な企業情報やクチコミ情報、SNSなどを閲覧するようになった。なかでも学生たちが、企業クチコミサイトを利用するようになったことが注目される。

当社の「学生が利用している就職サイト調査」では、ブンナビのような総合的な就職サイトを補完するようにOpenWork、カイシャの評判、キャリコネ、みん就という企業クチコミサイトを利用する学生が目に付くようになった。だが、この企業クチコミサイトでは、どんな情報が扱われ、その情報源、信頼性はどうなのか、企業の採用担当者や大学の就職担当者にとっては気がかりな点がある。いくつかあげてみよう。

1.働く人間から見た会社評価は主観的
企業クチコミサイトの多くは若手社員の転職のための情報サイトである。そのため内容は、働く人間から見た会社の仕事環境情報がほとんどである。その主な評価項目は、会社での働きやすさ、仕事のやりがい、入社理由と入社後のギャップ、労働時間、年収・賞与、福利厚生、職場の雰囲気、人事評価の公平性などである。こうした情報は、転職予定の人や就職を考える学生にとっては、知りたいものばかりだ。そのうち、勤務時間や残業、休日、給与などは数字で示せるだけに客観的だが、仕事のやりがいや職場の雰囲気は、その人の勤労観やキャリア目標と密接な関係があるだけに投稿者の主観が強く、評価は、個人的なものになる。それだけにこの企業クチコミサイトを利用する人間は、自分の視点で読み、その投稿や評価を参考程度にするという割り切りが必要になる。とくに実際に働いた経験がない学生が、こうした企業クチコミサイトを読むことは、就職や企業について表面的な誤解や偏見を生むことになりかねないから要注意である。

2.元社員の評価だからネガティブ情報が多い
企業クチコミサイトにおいて会社の仕事環境を評価し、投稿するのは、会社でなく、その会社の社員あるいは元社員である。しかも匿名である。そのため投稿内容や評価は、ネガティブで厳しいものが多い。在職中の社員の評価なら少しは信頼できるが、輝いている社員は転職サイトには登録はしていない。どうしても投稿者の多くは転職検討中の社員か元社員となる。元社員すなわち退職者だが、彼らは、当該企業に不満や失望があって退職した人たちだ。そうなれば、彼らの情報は一方的で、被害妄想ではないかと、疑ってみる必要がある。これから夢を掲げて就職しようとする学生にとって退職者による企業情報は、少しも役立つ情報とは言えないだろう。

3.匿名だから投稿者数や属性があいまい
情報の正確さや信頼度ということでは、投稿者数が多いほど信頼度が高まるが、その投稿者は匿名であり、人数は、表示されているが、本当の回答者数かどうか確認しようがない。さらに回答者の属性についての紹介が、あいまいな企業クチコミサイトが少なくない。例えば、社員と元社員との区別をしていない、雇用形態(正社員、契約、派遣など)や職種(営業、事務、専門職)、勤続年数などを明示していない、というサイトもある。なかには、匿名をいいことに退職者が悪意のある情報を投稿したり、会社側の人間が高評価の投稿をしたりしていることもある。

4.情報がコントロールされることがある
この企業クチコミサイトは、転職を希望する登録会員による転職サイトだから在職中の企業や辞めた企業に対する評価は厳しく、時には、企業が隠したいセクハラ体質や労基法違反事件などの不祥事がそのまま投稿されることがある。しかし、そうした投稿は、企業側から削除依頼があったり、サイト運営会社の判断で修正されたり削除されたりする。こうした情報のコントロールは、サイトの運営会社の営業方針(編集方針ではない)次第だ。企業クチコミサイトの運営会社が、登録者の転職を促し、運営会社が紹介する企業に就職してもらうことビジネスにしていることを忘れてはならない。

▼企業クチコミサイトへの対応
こうした企業クチコミサイトの台頭に企業の採用担当者は、どのように対応したらよいのだろうか、基本は、無視でよいのだが、採用担当者としては学生の不安や疑問に応えるということで次のようなことに取り組んだらどうだろうか。

1.人事制度や労働時間、職場の慣行などに問題が実際にある場合は、至急、改善する。
2.問題があると指摘された人事制度や職場慣行などについては、会社説明会やホームページで取り上げ、説明する。
3.社員の退職に当たっては、丁寧な面談を行い、十分に語らせ、気持ちよく送り出す。
4.誤った情報や悪質なデマ、差別的な行為などが投稿されていないか、定期的に企業クチコミサイトをチェックする。
5.自社からの情報発信を活発にするオウンドメディアリクルーテイングを強化する。

▼学生は、確認のために利用する
新卒学生の場合、企業クチコミサイトの利用時期は、就活に熱心な学生は、就職先選びの時期である3年生の秋から登録するが、実際に活用するのは2月から4月のようだ。早期の場合は、企業研究だが、3月や4月となれば就活も最終段階で内定先企業を決めるときである。最後に迷ったときに確認するのだろう。そのとき、学生たちが、重視する職場環境の項目は、社風とか仕事環境、職場の雰囲気などが多いという。一部の業界や中堅企業の場合は、過剰な労働時間、厳しい人事管理、ハラスメントが横行する職場かどうか、ブラック企業でないかどうかを確認することも多い。これらの職場環境情報は、リアルな会社説明会やインターンシップで観察できるものだが、今年は、その機会が少なかったので、企業クチコミサイトでの確認が増えるかもしれない。

このように企業クチコミサイトは、学生の利用目的、利用時期ともに限定的で、就職ナビを補完するものである。コロナ禍後の新卒採用の展開は不明だが、当面、就活学生にとって就活情報の軸は、依然として就職ナビであり、企業のホームページであることには変わらないだろう。(夏目孝吉)

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