2020.04.07メールマガジン

コロナ汚染拡大のなかで展開される21卒採用

年明けとともに爆発的に拡大した新型コロナウイルス。いまや全世界に蔓延、人々を恐怖のどん底に陥れている。その影響は、日本経済だけでなく日本社会のあらゆる活動に深刻な打撃を与えている。それらの深刻さに比べると軽微なものだが、企業の採用担当者にとっては、21卒の採用活動の現状が気になる。

コロナ汚染問題が急拡大したのは1月下旬だったが、すでにこの時点では、多くの企業は、学生との接触が活発で、一次選考に入っていた企業も少なくなかった。そのため企業は、採用活動をストップすることができず、さまざまなコロナ汚染回避策をとりながらの採用活動継続となった。そんな採用活動の現状を、当社の学生モニター調査を手掛かりにレポートしよう(調査期間は、2020年3月1日~10日、有効回答数648件。以下、本調査と略す)。

1.大型合同説明会中止
コロナ汚染回避策ということでは大規模な企業説明会の中止が大きな話題となった。感染防止策の基本が「閉鎖空間において近距離で多くの人と会話する集会は中止」とあっては、数千人以上の学生が集まり、講演を聞いたり、質疑応答、面談したりする大型イベントは当然、中止となった。この中止によって学生は、新たな企業との出会いもなく、志望企業の絞り込みができず、企業研究不十分のままに企業との面接に臨むことになった(規模の小さい説明会やセミナー、グループワークは開催されていた)。

一方、企業は、今年の1月までに昨年夏・秋のインターンシップや年末の企業研究セミナー参加者を継続的にフォロー、コアとなる学生を一定数、確保していたが、合同説明会の中止により、新たな学生たちと出会うチャンスがなくなり、母集団の形成に不安を残したまま採用活動に入ることになった。

2.採用スケジュールは予定通り
本調査が実施された2月の段階では、どの企業も数か月でコロナ汚染は危機を脱すると読んでいたためか、採用計画の変更はなく、昨年からフォローしてきた学生には囲い込みを強め、新たにエントリーした学生には接触を本格化、一次選考に入った企業が少なくなかった。そのため2月時点での企業は、予定通りの採用活動を継続することになった。

その動きを本調査では、学生に「2月中にあなたが取り組んだこと」という質問で聞いた。その結果は、下記の通り(カッコ内は、昨年との増減)。
・学内の合同セミナーなど就活イベントに参加 38.9%(-11.1%)
・学外の合同セミナーなど就活イベント参加 38.9%(-8.7%)
・インターンシップ参加 49.8%(+4.9%)
・OBOG訪問 7.9%(-1.4%)
・会社説明会参加 53.3%(+7.5%)*
・エントリーシート提出 32.4%(+10.8%)
・WEBテストなど選考参加 30.1%(+11.5%)
・個人面接参加 23.9%(+9.5%)*
*説明会、面接については、オンラインとリアルを区分していない。

これらの活動は、学生の就活であるが裏返せば企業の採用活動に他ならない。昨年との違いを見ると、OBOG訪問がやや減であり、規模の大きい学内外の合同説明会が大幅減だった。合同説明会の大幅減は開催中止の影響であり、OBOG訪問は、濃厚接触になりかねないので企業側から禁止したためだ。どちらもオンライン化できないものだ。これに対して、個別の企業説明会やエントリーシート提出、WEBテスト、面接参加などは大きく伸びている。合同説明会に代わって小規模の会社説明会の頻繁な開催や採用イベントのオンライン化が進んだからだが、2月の採用活動がコロナ汚染回避を考慮しながらも昨年以上に早期から精力的に採用活動をしていたことが注目される。

3.内定保有率は15%で昨年より早い
採用環境は急速に深刻化したが、当初の採用計画を変更する企業は少なく、採用活動は活発だった。その動きは、早期の内定率を見ても推測できる。本調査によれば3月上旬段階で就活学生の14.9%が内定を保有している。これは、昨年より6.8%も増加していた。こうした危機的な環境でも企業にとって若い優秀な人材は以前に増して不可欠だという決意が感じられる数字だ。

4.採用イベントのオンライン化が急拡大
コロナ汚染の影響ということで今年は、多くの企業が会社説明会や採用イベントを次々とオンラインに移行した。なかでも会社説明会のオンライン化は、目新しいとは言えないが、会社説明会を代替するものとして再認識され、内容が一新された。これまでは、ホームページを補完する会社紹介だったが、今年は、会社説明会のように社員が熱っぽく語り、学生との質疑応答や各種フィードバックを充実させてインパクトとリアル感のある内容になった。

今年、オンライン化が本格化したのが採用選考の各種イベント。エントリー、エントリーシート、能力・適性テスト、面接など採用選考の各場面でAIを導入したり顔認識の新技術を活用したりと採用選考のオンライン化が急速に発展した。この動きは、数年前から予測されていたが、コロナ汚染対策にも有効ということで一気に広がった。

5.動画面接が増え始めた
オンライン選考ということで話題を集めたのが動画面接。これは、エントリーにあたって学生が自己紹介を動画で提出するものでエントリーと一次面接という2つの採用プロセスを一本化する優れものだ。その動画の内容は、「1分で自己PR」というのがほとんどで、学生は自宅などでスマホの自撮りするだけ。昨年は、5%にも満たなかったが、今年は14.8%の学生が動画面接あるいは動画エントリーを経験している。今年の場合は、濃厚接触回避という配慮もあるだろうが、エントリーを読み込むより、はるかに短時間で多くの学生の個性や魅力、熱意を的確に発見できるというメリットが評価されたためだろう。

動画面接を導入している企業に対する学生の印象も悪くない。その評価は、本調査によれば、下記のとおり。
①よい16.0%、
②どちらかといえばよい18.6%、
③何とも言えない47.0%、
④どちらかといえば悪い13.3%、
⑤悪い5.1%

この評価は、コロナ汚染回避という理由だけでなく、デジタル世代である学生たちだけに自分で動画を作成し、スマホで送受信できるという点でも支持が多いのだろう。

オンラインによる面接も増えた。これは企業のコロナ対策としては、面接のための会場設定、面接官と学生の濃厚接触回避というメリットがあるが、採用面接において企業、学生ともに選考時間の短縮、費用軽減、日程調整不要などのメリットも大きい。このオンライン面接は、現在、録画型、ライブ型、AI型などがあるが採用業務の効率化を実現するものとしてコロナ後も発展するだろう。現在の学生たちは生まれながらのデジタル世代だ。それだけにコロナ汚染に際して会社説明会や面接など採用活動の多くがオンラインに切り替えられたが、それらの移行を学生たちがスムーズに受け入れられたのは企業にとって幸いだった。

6.どうなる採用計画
21卒の採用活動は、コロナ汚染の真っただ中で展開されているが、多くの企業は、当面の採用計画について採用中止あるいは採用人数削減という動きは見せていない。その背景には、すでに採用活動が最終局面に入っているからだが、もっと大きな理由としては、新卒採用は、今後の企業生き残りのための最優先課題だからだ。それでもこのコロナ汚染が制御できなければ、多くの企業が新卒採用そのものを抜本的に見直す企業が増えてくるのは確かだ。そうなれば、22卒の就活学生にとっては就職氷河期の再来となりかねないだろう。今後の新卒採用については、現在のコロナ汚染がいつ終息するか、その後の世界や日本の経済や社会の大変化が見えない現在、軽々に論じられないので、今回は、ここまでにしておこう。(夏目孝吉)

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