2020.03.10メールマガジン
金融業界の人気度は低迷、将来性に不安
21年卒の採用活動が3月1日からスタートした。今年は年明けとともに新型コロナウイルスの大流行で日本経済は破綻寸前、企業は、景気、株価、為替、経営環境、事業活動など、今後どうなるか全く見通しが立たなくなっている。それでも多くの企業はこうした中で、手探りの採用活動をすすめている。企業が、生き残るためにも人材採用は必要だからだ。
一方、学生たちは、志望企業を絞り込み、エントリーシートを提出、企業との面接に臨むという時期だが、合同説明会など大型イベントは感染リスクがあるということでオンラインセミナーに切り替えられ、面接はWEBを利用しながら就活を行っている。そのためこの時期にピークを迎える企業の採用活動は、当初の予定から大きく遅れている。当然、オリンピック前に採用活動終了というスケジュールは絶望的となっている。
さて、こうした採用環境激変の中で学生たちの就活や志望企業には、予想外の変化が現れそうだが、これまでの学生たちの就職動向として一昨年来からの話題である金融業界の動向が気になる。21卒の学生たちは、金融業界をどう見ているのか、就職先としての人気や評価はどうなのか、新型コロナ感染ショック直前の20年1月の「ブンナビ学生アンケート調査」(以下、本調査と略)を手掛かりに見てみよう。
まず、就職先としての志望度である。現在、就活中の学生が志望している業界はどこか。
多い順にあげると、①メーカー(食品・住宅)34.%②通信・情報22.7%③マスコミ19.3%④商社18. 2.%⑤鉄道・運輸17.0%⑥メーカー(自動車・電機・電子)14.6%⑦ホテル・旅行13.6%⑧コンサルテイング13.0%⑨メーカー(鉄鋼・繊維)12.7%⑩不動産11.3%だった。そこで、注目の金融業界は、どうか。保険9.8%、メガバンク・地方銀8.5%、証券6.2%、どこも12位以下に後退した(昨年は、銀行は8位)。かつて就職希望学生の憧れの的だった銀行、保険、証券という金融各社にその面影はまるで見られない。
さらに金融業界のなかで、今年の就職人気が下がるとみられているのは、地銀が最も多く、以下、信組・信組、メガバンク・信託など銀行ばかりだった。これは、今後、発表される当社などの就職人気企業ランキングにもストレートに反映されることになるだろう。なぜ、金融業界の人気がなくなったのか、学生側の業界イメージがどのように変わったのか、本調査から見てみよう。
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本調査の概要
調査対象:21卒予定学生(文系・理系、男女)
回答数:475人
調査時期:20年1月3日~19日)
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これまで金融業は、学生にどのように見られて就職人気を得ていたのだろうか、この業界に共通するのは、経営の安定性、社会的評価の高さ、給料の高さ、仕事内容といったイメージの高さだろう。だが、その人気が低下してきたのは、学生たちが、金融業界にこれらの魅力を見いだせなくなったことと金融業の将来性に対する不安からだろう。そのイメージの現状について本調査が詳細に分析しているので紹介しよう。
なお、この調査での質問は、学生に「それぞれのイメージが金融業界に当てはまるかどうかを個々に聞いている。その回答は、「当てはまる」「やや当てはまる」「よくわからない」「あまり当てはまらない」「当てはまらない」のどれかである。主なイメージに対する学生の回答を見てみよう。
金融業界といえば安定性。学生たちは、現在の金融業界にどれくらい安定性があると思っているのか。「当てはまる」が19.5%、「やや当てはまる」が41.6%で合計61.1%、なんとかプラスイメージを保ったが、ここでは「あまり当てはまらない」という回答が19.7%もあることに注目したい。金融イコール安定とはいえない回答が少なくないのである。
では「社会的な地位が高い」という通俗的なイメージはどうか、ここは「当てはまる」「やや当てはまる」という回答が74.6%もあった。異論は、9.4%にとどまった。親や世間の先入観を引き継いでいるのだろうか。金融業界人気の理由の一つである「給料が高い」というイメージは、どうか。73.9の学生がプラスの回答をしているのも予想通り。「福利厚生は、充実している」は、プラスイメージが48.0%と案外少なかったが、この項目では、「よくわからない」という回答が35.5%もあった。福利厚生は、内部の制度なので社員に手厚くても学生には伝わっていないのだろう。
金融業界での働き方についてはどう思っているのだろう。採用担当者にとって気がかりなのは、「仕事にやりがいがある」と思われているかという項目だ。「当てはまる」が9.6%、「やや当てはまる」が26.1%で合計すると35.7%。これに対して「当てはまらない」9.3「あまり当てはまらない」が25.5で合計34.8%。プラスマイナスが拮抗している。採用担当者にとっては残念な結果といえよう。
このほか、「ワークライフバランスが充実している」かという質問も興味深い。回答は、「当てはまらない」と「あまり当てはまらない」という評価しない回答が30.3%、評価する回答が33.8%で、ここは、辛うじて評価されていた。働き方では、注目は、残業の多い業界かどうかのイメージ。結果は、「当てはまる」と「やや当てはまる」の合計が49.2%で、「当てはまらない」と「あまり当てはまらない」という回答の23.6%をはるかに上回っていた。残念ながら、未だに残業の多い業界と思われているようだ。仕事が厳しいかどうかのイメージも聞いている。ここは、「当てはまる」と「やや当てはまる」の合計が66.7%であるのに対して「当てはまらない」と「あまり当てはまらない」の合計はわずか6.4%だった。圧倒的に多くの学生が金融業界の仕事は厳しいと認識しているようだ。
就職人気に大きな影響を及ぼす業界の将来はどうか。「漠然とした不安がある」という質問について「当てはまる」と「やや当てはまる」の合計は68.3%、不安イメージを持たないという回答は、16.3%、「よくわからない」15.1%。圧倒的に金融業界への不安が多い。これでは就職を志望する学生は少なくなってしまう。関連して金融業界の将来についてのイメージも聞いている。それは、「AIやロボット化でリストラされる」という不安である。これについては、なんと「当てはまる」と「やや当てはまる」の合計が77.3%に達していた。逆に「当てはまらない」「あまり当てはまらない」の合計が10.2%に過ぎなかった。AIやロボット化が発展して即リストラにつながるという短絡的な思考が多いのは残念だった。
金融業界のイメージに影響する要因として採用人数の抑制と採用選考の長期化がある。本調査でもこの2項目を聞いている。「採用人数が縮小している」が6割弱、「採用選考の期間が長い」が、4割近くもいた。ここについては、金融業界として採用活動において留意するべき点だろう。
この調査結果から金融業界の採用活動の課題は明白だ。
第一は、金融業の新しい役割の明確化とこれからの方向の明示である。AI、フィンテック、仮想通貨への挑戦、GAFAとの競争、M&Aなど金融業のスケールの大きさや将来性をもっと学生に饒舌に語るべきだろう。
第二はAIの技術やロボット化による働き方の変化や処遇の変更である。安定性もなければ高賃金も約束されない、仕事はハード、しかし、仕事のだいご味、やりがい、将来性は豊かだというイメージへの転換である。これによって金融業界は、従来とは違う人材へのアプローチが本格化する。
第三は、採用活動のオープン化とスピード化である。金融ビジネスを魅力あるものと学生に理解してもらうためにネットでの情報発信だけでなくリアルな採用イベントやインターンシップ、情報誌の発行などで新しい金融ビジネスの広報強化とスピードある採用選考の取り組みが必要である。とりわけ丁寧すぎる採用や専門職化した採用枠、新卒中心の採用活動は、見直す必要がある。もっと企業情報や採用情報を早期から公開し、採用活動を広範囲にして採用プロセスわかりやすくすることが課題だ。
ここ10年、銀行、証券、保険など金融業界は、大手も中小もグローバルな市場での事業展開を訴え、グローバル人材を中心にした採用PRを展開してきたが、もう見直さなくてはならないだろう。これからは、これまでの金融システムとは全く違うAIの技術やビッグデータを使ったフィンテックや仮想通貨の登場で従来の金融ビジネスは、なくなるかもしれない。
だが、今の金融業界には、そうした課題を乗り越え、新しい金融業を創造する力や人材は豊富にあるはずだ。これから就活を本格化する学生たちは、そうした変革と創造のイメージで金融業界の将来を見てほしい。(夏目孝吉)
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