2019.11.19メールマガジン

文科省が、2019年度の採用・就職活動を多角的に調査

本年度の就職・採用活動の総括調査は、すでに当社のほか就職情報各社から発表されているが、文科省も自ら採用、就職・採用活動の実態を把握するため就職問題懇談会の協力を得て、全国の大学や企業に対してアンケート調査を行い、10月30日に「2019年度就職・採用活動調査」として発表した。(以下、同調査と略)

同調査は、文科省ならではの興味深い質問項目も少なくないので調査結果をいくつか取り上げてみよう(調査概要は文末記載)。

▼より早期化した企業の採用活動
まず、最後となった指針の実態調査である。同調査では、企業の広報活動がいつ頃から活発化したか、その認識を大学の就職担当者に聞いている。大企業の場合、3月以前から開始していたという回答が24.7%(昨年は18.3%)、3月以降が75.2%(昨年は81.8%)だった。指針どおり7割の企業が指針を表面上は、順守したようだが、早期から動いていた企業が2割を超え、昨年より増えたという。

では選考開始時期はどうか。これも大企業の場合だが、6月以前が63.3%(昨年58.9%)、6月以降は36.6%(昨年41.1%)だった。指針では選考開始は6月以降だから、6割の企業が前倒しをしたことになる。この認識は、企業対象の同調査でも67.8%の企業が6月以前に選考を開始していたと回答していたことからも裏付けられた(昨年58.1%)。このように最後の指針下での2019年の採用は、広報開始はなんとか順守されたものの選考開始は、大きく崩れ、より早期化したのである。

▼指針は評価できる
指針が形骸化したとはいえ、広報活動開始時期が昨年同様になんとか維持されたことについて大学側の評価はどうか。学生の授業やゼミの学習時間の確保などに「良い影響があった」という回答が3割近くあり、大学として広報活動開始の日程設定は評価している。

採用活動開始時期についても同様で、「学生が就活の準備をしやすくなった」という評価が5割もあり、大きく崩れたものの大学側からは、一定の評価があった。
これに関連して同調査では、大学に就職・採用活動の日程について聞いているが、その回答は次のとおりだった(かっこ内は企業の回答)。
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「現在の設定でよい」45.9%(32.2%)
「広報活動は自由に」4.0%(13.3%)
「採用選考は自由に」2.9%(5.4%)
「いずれも自由に」4.2%(12.3%)
「どちらともいえない」24.8%(27.8%)
――――――――――――――――――――
大学と企業の回答状況が大きく違っているが、企業にも就活ルール(日程)継続を希望する企業が少なくない。そのためこの結果は、指針が撤廃されても、政府のもとで就活ルールを継続することが望ましいという論拠になっている。

▼多くの企業は「学業への配慮」を行っている
文科省らしい調査項目をあげてみよう。採用活動において企業は「学業への配慮」を行っていたか、という質問である。企業の回答は「行っていた」が81.3%と定着しているといってよいが、どのような配慮か、多い順にあげてみると

1.説明会や面接日を余裕ある日程で連絡
2.面接日を個別に設定
3.授業・試験の日程を配慮
4.面接を土日・夕方に設定
5.遠隔地学生への配慮

といった対応だった。かねて文科省や大学が企業側に要望していた課題が徐々に取り組まれてきたようだ。

▼学業成果重視は5割
文科省らしい調査項目としては、採用選考において学業成果を企業がどう活用しているかの結果も興味深い。採用選考にあたって「学業成果を表す書類やデータ」を求めている企業は76.9%だったが、「重視している」企業が52.3%、「重視していない」は30.6%だった。そして、重視していると回答した企業にその中身を聞いてみると、成績81.5%、卒業見込み66.3%、履修科目46.7%ということだった。成績や履修内容だけでなく卒業できるかどうかも気になるようだ。ここでは、なぜ成績などを重視しないのか、その理由や大学教育への要望などを企業に詳しく質問してほしかった。

▼インターンシップは就業体験というイメージは、見直しへ
インターンシップについての質問も多くあったが、実施日数、内容、選考との関係、実施時期など最近の問題点などについては突っ込みが浅く、不満が残る。それでも大学側は、2月のインターンシップは、実質的な企業説明会になっているとの見方が4割、選考活動とみたのは1割と回答していたのはリアルだった。

インターンシップの実施時期別の実施日数の内訳という調査も興味深い。実施が最も多い3月のインターンシップでは65.8%が1日開催だった。これは、8月においても同様で50.4%を占めていた。夏のインターンシップが、長期の就業体験というイメージは、もはや見直さなくてはならなくなった。

▼就活におけるハラスメント対策が課題
同調査には、企業が真摯に受け止めなくてはならないものもある。例えば、大学対象の調査では、学生が自ら職業を選択できる能力を身に付けるために企業に取り組んでもらいたいものは何かという質問だ。そこでは複数日数のインターンシップへの要望が最も多く、次いで会社説明会、キャリア科目への協力があげられていた。長期の就業体験型のインターンシップへの期待が大きいのである。

また文科省が、就活におけるハラスメント的な行為としてオワハラやセクハラを取り上げていることも見落とせない。同調査では、オワハラについては68.3%の大学・短大が「ある」と回答し、「内々定の段階で、『誓約書』の提出を求められた」とか、「内々定を出す代わりに、他企業へ断りの電話をかけるよう強要された」とか、「他社への就職活動を取りやめないと内々定を出せないと言われた」などが事例としてあげられていた。

この質問は企業にも聞いているが、その回答は、90.1%の企業が「ない」と回答していたが、4.9%の企業は「ある」と回答していた。実態はもっと多いように思うがどうだろうか。一方、セクハラについては、対策をしたかという質問に対して企業は「行っていない」が68.5%、「行った」は28.1%だった。この結果はどうだろう。今後の企業の採用活動の課題として取り組む余地があるのではないか。

▼来年の就活に不安は3割
この調査では、2020年度に開催されるオリンピックに関連して就職活動について不安があるかを大学に聞いているが、「ある」という回答は、33.3%もあった。その不安として、企業の採用活動の早期化、短期化、交通手段の確保、宿泊施設の確保、学生の費用負担増、就職活動時期と大会ボランティアの重複、インターンシップの機会減少などがあげられていた。これに対して大学として特別な対応を聞いていたが「ある」という回答は12.7%で、ほとんどが「無回答」だった。企業も大学とともに対応を考えなくてはならないだろう。

このように同調査は、採用・就職について詳細で多角的に調査しているものの、経団連が問題提起した通年採用への期待や不安、一括採用の評価、AI採用などに触れていないのはなぜだろうか。2020年の採用がどうなるかも大事だが、3年後、5年後まで見据えた課題についてもっと企業や大学に大胆に聞いてほしかった。

しかし同調査は、いささか物足りない部分もあるが、大学教育と就職の現状を丁寧に分析していることは評価できる。企業としても大学が企業の採用活動をどのように見ているのか、就活学生にはどこを配慮したらよいのか、を理解するために同調査を参照する価値は十分にあるだろう。(夏目孝吉)

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「2019年度 就職・採用活動に関する調査結果」の概要

【企業編】
調査対象:全国の企業 2,500社
調査時期:2019年7月17日~2019年8月7日
回答率:回答率39.2%(有効回答数 980件)

【大学編】
調査対象:国公私立大学、短期大学及び高等専門学校 計1,177校
調査時期:2019年7月12日~2019年8月7日
回答率:94.0%(有効回答数 1,106件)

なお、最終版を来年2月に発表する予定という。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/10/1422283.htm

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