2019.09.24メールマガジン

21卒学生の期待と不安

21卒学生の就活がスタートした。日本経済は減速感を強めているが、企業の新卒採用意欲は相変わらず旺盛で、来年も求人ブームが続きそうだ。しかし、新卒採用にも構造変化が進んでいる。インターンシップが採用活動の軸となり、AI選考が急速に広がりつつある。

そして経団連は21卒から従来の採用ルールであった指針を撤廃し、通年採用を提案、新しい新卒採用が模索されはじめた。こうした新しい環境の変化の中で、学生たちは、どのような職業観を持ち、就活に臨もうとしているのか、21卒を対象とした当社の「21卒ブンナビ学生アンケート調査8月」(以下、本調査と略す。調査概要は文末に)を手掛かりに探ってみよう。

▼すでにインターンシップ参加が6割
ここ数年、企業は夏のインターンシップを重視、多くの企業が実施するようになった。その目的は早期から学生に企業名を知ってもらい、事業内容や仕事に関心を持ってもらうためである。

そのためインターンシップ本来の目的である就業体験型が年々減少、夏インターンシップの多くが会社説明会型の1dayインターンシップとなった。開催期間が1日で、その内容は会社説明会型とすれば、会場も全国各地の事業所で数多く開催できて、多くの学生を集めることができる。今年の夏もそんなインターンシップが大盛況だった。

本調査によれば、8月中旬までにインターンシップに参加した学生は、59.2%に達し、その9割は1dayインターンシップだった。こうした夏の1dayインターンシップは、学生の満足度が高い。就活前の準備活動であり、採用直結でなく、時間的な拘束もないからだ。ところが最近の傾向として企業が1dayインターンシップであっても優秀な学生については、早期から囲い込み選考に結びつけるようになった。

そのため本調査では、早期のインターンシップでも8割の学生が選考につながっていると思うようになった。興味深いのは、参加学生がインターンシップ先企業の本選考にも応募するかとの質問には、応募したいと回答した学生が8割もいたことだ。早期にリアルに企業を知ることで企業に対する理解が深まったばかりでなく志望度も大いに高まったのである。

その効果にインターンシップに消極的だった企業も注目。いまやインターンシップは、学生ばかりでなく企業にとっても採用活動の軸になったのである。

▼「できれば大手企業」が多い
就活直前の現在、学生たちは、就職先をどれだけ具体的に考えているのか。大学の就職ガイダンスには8割の学生が参加、就活イベントには5割、インターンシップに6割の学生が参加している。最近の学生は、情報についての関心は高いといわれているが、この数字にみるように就活準備はほぼ終えているようだ。

では学生たちが、就活に本格的に取り組む時期はいつか。その回答には、少し驚く。8月が半数、9月から10月になると8割の学生が就活を本格化させると回答している。年々早くなっているのは、夏インターンシップ激増がその契機だったようだ。

このほか、学生がこだわる就職先の企業規模の調査も見逃せない。「大手企業しか考えていない」4.1%(11.1%)、「できれば大手企業」52.5%(42.7%)、「企業規模は気にしていない」38.4%(39.3%)、「中小企業・ベンチャー」5%(6.9%)だった。

カッコ内の2018卒に比べると傾向が、はっきりしている。むやみに大企業にこだわるのでなく、「できれば大手企業」と控えめだが、結局は大手企業志向なのがいかにも最近の学生らしい。

就職意識の高まりや就活準備の程度は就職したい企業の社名を挙げられるかという設問でよくわかる。就活スタートにもかかわらず志望企業名を挙げられるという回答が38.5%もあった。早期から情報を集め、インターンシップに参加して志望先を絞り込んでいるようだ。

▼AI採用は反対
昨年の採用選考では、エントリーや面接などの場面でAIを使う企業が増えてきたが、21卒学生はAI採用についてどう思っているのだろうか。本調査では、エントリーシートをAIで選考することについて聞いている。これについては、賛成24.2%、反対34.6%、どちらともいえない33.7%だった。反対がやや多いが、これは機械的採点に対する不満であり、評価基準の不透明さ、AIに対する不信が反対理由だった。

多くの学生が体験するAI面接はどうか。賛成17.7%、反対34.6%と、ここでは断然反対派が多い。その理由は「人間の魅力を人間が評価してほしい」という声が圧倒的に多かった。ほかにはAIがどれだけ人物を評価できるかという技術的な不信、企業の人材観を疑問視する意見などが多かった。

だが、企業側の採用業務の負担減、遠隔地採用の効率化、人物評価の公平性、通年採用への活用などの魅力は大きく、企業は徐々にAI選考を導入していくことになりそうだ。

▼通年採用はよくわからない
経団連の通年採用への移行という提言は、当初は大々的に報じられたが、その後は、さっぱり聞かれなくなった。この通年採用は、すでに多くの企業が実施しているので目新しい提言でもないが、学生の認識はどうなのだろう。

本調査では、学生に通年採用の認知度を聞いている。「聞いたことはあるが影響はよくわからない」が50.8%、「何のことかわからない」が16.6%。これに対して「よく知っている」は32.6%だった。学生の関心は低く、「わからない」という学生が多いのは意外。だが、学生たちの通年採用のイメージは的確だ。

その理解は「低学年から採用活動が始まる」がもっと多く40.4%、次いで「3年生向けの早期からの採用活動」が36.9%だった。通年採用の実態をよく理解しているといえよう。残りは「卒業後の採用活動」「4年生秋以降の採用活動」。

ではこの通年採用への賛否はどうか。歓迎するという意見は3割で反対が1割、どちらともいえないが3割、わからない他が3割だった。まだ通年採用の実態が知られていないからこうなったのだろう。この学生たちの理解に企業側は今年、どのような採用活動を展開するか、通年採用が一部の優秀学生を早期内定する名目に利用するだけで終わってはいけないだろう。

▼就活前の学生たちの不安
就活前の不安ということでは、多くの学生は、自己分析のほかに面接対策、SPI対策など試験対策や学歴差別、地方大学の情報格差などをあげていたが、これは毎年のこと。21卒特有の不安材料は何だろう。

本調査では自由記述で聞いている。例えば「採用の制度が変わりつつある今、企業の採用に向けた動きがわかりにくい。はっきりしてほしい」とか「いつから採用選考について考えればいいのか?8月現在ではインターンのことしか考えていません。大丈夫なんでしょうか?」「実際いつから本選考が始まるのか分からないので、全部をチャンスだと捉えて就職活動をしているが、意識して取り組んでいるので疲れる」と就活のスケジュールについての不安を挙げる意見が多かった。それでもこれは少数意見。

多くの学生たちは、気にしていない。もともとルールが形骸化していることを承知しているからだろうか、それにしても指針なき採用活動や通年採用、AI採用に不安を挙げる学生が少なかったのはどうしたわけだろうか。これらを大きな変化と受け止めていない余裕のある学生たちなのか、就職を楽観視している学生たちなのか。これが21卒学生の就活前の就職観と不安である。(夏目)

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