2015.12.15メールマガジン
「指針」が見直されたが、一括採用の緩和が今後の課題だ
3年前、安倍首相の肝煎りで提案された「指針」は、大学教育尊重、学生生活充実、採用活動正常化などをめざす正論だけに経団連や大学団体にも異論なく了承された。
だが、2年間の猶予後、実施された今年の採用活動では、危惧されたようにすべてが裏目に出てしまった。採用活動の長期化、インターンシップの変質、早期接触行為の横行、陰湿な内定者拘束、バラバラの内定出し、といった現実だ。そのため今年の採用では、学生だけでなく企業にも大きな混乱と混迷がもたらされた。
この実態に企業側は、採用活動がヤマを越した8月頃から「指針」見直しの声を上げた。その動きは、早く、経団連は、10月上旬には、見直し案を決定、「指針の継続、定着化」という慎重論を押し切って11月下旬、就職問題懇談会(大学等の学長で構成される団体)の同意を得て決定、来年度は、「3月就職情報解禁、6月選考開始」という改訂された「指針」で再出発することになった。
▼今回の「指針」見直しは、十分な検証もなく、いささか拙速ともいえる面があったが次年度の採用活動の準備のためには、ギリギリのタイミングだったことは評価できる。それでも見直しが選考期日の前倒しだけに企業の採用担当者や大学の就職支援の担当者にとっては、現在、見通し不明、準備期間不足で困惑している最中だろう。
だが、今年の採用では、就職情報解禁から選考開始までの期間が長かったことで様々な混乱が起こったことも事実だ。それだけにこの期間の短縮は、改善といえるが、今度は逆に短期集中という弊害が予測される。だが、学生にとっては長期化よりは、まだよいだろう。
▼このように指針の改定によって、採用活動や学事日程の変更など新たな混乱はともかく、今後の政府や企業にとって重要な課題は、新卒採用の構造を改革し、大学教育の充実や採用活動のルールを実効あるものにすることにある。その前提がないと、かつての就職協定や倫理憲章のように制定、改定、廃止を繰り返すことになる。
そのためには、政府や企業は、大きな流れとして新卒採用システムの改革を進めていくしかない。その突破口が、新卒採用の枠組みの柔軟化である。いわゆる一括採用からの脱皮だが、政府も既卒者の採用やハローワークとの連携などをして企業の後押をしているが、まだ一部にすぎない。
期待は、ここ数年の企業の新しい動きである。例えば、通年採用である。これは、採用時期を年一回でなく夏採用、秋採用などを追加して複線化することである。すでに理工系採用、地域特定職採用などにおいて徐々に増えている。
もう一つは、グローバル採用。留学生や現地外国人など選考時期、入社時期が分散化している新卒採用の拡大である。これらは、一括採用の枠を緩和する。このほか、専門家が検討している案も考慮してよい。
現実的だが実行が難しい案としては、企業規模による採用時期のゾーン化がある。つまり大企業は、前期に集中、中堅・中小企業は、中期に、地方企業は後期に選考を集中化することだ。これは、学生の就職行動からして現実的だが、中堅・中小企業が優秀な学生を採用する機会を奪うことになるという反発もある。
今回、改定された「指針」が遵守されれば、中堅・中小企業は、夏に採用活動をシフトするところが増えるだろう。これを理工系学生は春、文科系学生は初夏に採用活動を分けるという案もある。だが、金融機関も理工系を採用する時代だし、理工系かどうか分類が難しい学部・学科も多いだけに混乱するだけという反論もある。
さらに大胆な案は、採用活動のルールを撤廃、大学の低学年からでも内定パスを出したり、採用したりする案。これは、すでに導入している企業もあるが、学生は、学ぶことの意味を考え、企業は、何を大学に期待するのか、大学は、大学教育そのものが問われることになる。
さらに秩序ある採用活動ということでは、学校・教授推薦制度の強化もあるが、大学側での人材の見極めが難しいだけに学校成績優秀者を偏重するという弊害も指摘されている。このほか契約型採用や新卒紹介といった多様な採用も新卒採用の柔軟化を進めることになる。
▼すでに17年卒の採用活動は、スタートしている。それだけに選考開始の前倒しは、企業の採用活動に大きな変化と混乱をもたらすだろう。だが、新卒採用の大きな流れは、こうした混乱の中で徐々に次のステージに移りつつある。先に見た通年採用や既卒採用、グローバル採用が拡大することによって一括採用が内部から少しずつ崩壊し、「指針」が無用のものになる日が近いからだ。それが、何年後かは、不明だが、その
ことに期待したい。
[15.12.15]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉
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