2015.11.02メールマガジン
「指針」で混乱、混迷した16採用
安倍総理の肝煎りで実施された「指針」は、初年度において早くも見直しとなり、17卒は選考開始日を3か月前倒し、8月から6月とする見通しとなった。この「指針」はアベノミクスの一環として、「学修時間の確保」「留学等の促進」「インターネット等キャリア教育の早期実施」などを目的として策定されたもので、その趣旨は正当であり、誰も異論のないところだった。
だが、実際に「指針」がどれだけ遵守されるかは、当初から疑問視されていた。当時の指摘では、人材獲得競争が年々過熱化していること、アウトサイダー企業の存在、指針に拘束力や罰則規定がないこと、採用活動の原則自由などの理由から無理ではないかと指摘されていた。
それでも大学教育の尊重、採用活動の早期化阻止ということで企業、大学の諸団体が合意し、今年から「指針」が実施された。
▼そして実施初年度の現在、経過と成果を総括すれば、企業、大学ともに混乱、困惑、混迷、失敗の1年だった。まず企業の「指針」への対応と影響をキーワード的に羅列してみよう。
採用直結インターンシップの増加、学内説明会対策強化、ターゲット採用の強力推進、面談会の頻繁化、Webテストの早期化、水面下の採用選考拡大、内定辞退の急増、オワハラ横行などだ。
その結果、採用活動の長期化、大手企業による人材独占、採用終期の早期化、採用計画未達企業の続出となった。このように「指針」による企業側の混乱、混迷は相当のものだった。
▼一方、就活を終えた学生の指針評価はどうか。多くの学生は、情報解禁が3月になったのは良かったが、選考開始が8月というのには困ったと回答していた。
良かった点は、大学3年次の授業やサークル活動に出ることができた、留学を終えてから帰国する余裕があり、就活に参加できたことなどだ。これはまさに「指針」が目指したものであり、一定程度の成果を上げたことになる。
しかし「指針」によって、困惑し混乱した学生のほうがはるかに多かった。企業との接触が3月に開始してから、選考開始まで5か月間もあったこと、エントリーの受付がマチマチだったこと、学生の就職人気の高い銀行、保険、総合商社、大手メーカーの選考が8月からとされたこと、早期内定企業による強烈な内定拘束、オワハラの恐怖が学生に混乱と困惑を招いた。
それに意外な問題点もあった。就活のスケジュールが長く遅いため、モチベーションが維持できなくなったこと、かつてない酷暑の到来、夏選考だからクールビズでよいのかスーツかという服装の戸惑い、季節外れの台風による交通機関の混乱であった。
これらのなかで学生たちは3月から8月までの長期間、綱渡りの毎日を過ごしたのである。学生たちの総括は、長かった、暑かった、辛かった、の三つだった。
▼このように「指針」の初年度は散々だった。そのため、採用活動がヤマを越した8月中旬あたりから「指針」の批判や見直しの声が各方面から聞こえてきた。
最初に声を上げたのは、中小企業を会員に持つ日本商工会議所の三村会頭。三村氏は8月31日の記者会見で、学生の7割近くが8月1日時点で内定を持っているという報道に触れて、「どうしても理解できない」「多くの企業が解禁日前から採用活動をしていたのではないか」と指摘。「まじめにやったところが損する。しわ寄せが中小企業にくるというのは看過できない」と述べ、解禁日より前に先行した一部の大手企業を批判した。
これは経団連も同様で、榊原会長は9月28日の定例記者会見で、8月以前に抜け駆け選考を始める企業が相次いだことから「選考解禁日を繰り上げることを検討し、見直し案を近く示す」と述べた。
そのため経済団体は、採用担当者にアンケートを実施したり、ワーキンググループを作ったりしながら改定案を議論していた。その結論は10月25日の読売新聞朝刊が報じるような「就職選考 6月解禁へ」「経団連調整 来年から前倒しへ」ということのようだ。
この案には異論はないが、「指針」を提案し、実施させた政府の立場はどうなのだろうか、面目丸潰れだ。奇妙なのは、経団連や日商の立場。「指針」に賛同しながらも、1年後に問題があるといって改訂に取り組むというが、「指針」を踏みにじったのは傘下にある一部大手企業である。その追及はどうなのだろうか。
経済団体として指針を徹底できなかったことを反省しながら、会員企業の姿勢を正すこともしてほしいものだ。
[15.11.02]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉
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