2015.09.15メールマガジン
成績重視は、採用活動を正常化する
▼ことしの採用選考では、これまで重視されていなかった大学の成績が選考や面接の評価ポイントとして重視されるようになった。この傾向はここ数年、微増していたが、今年は、かなり広く見られるようになった。これまでの人物本位、面接中心という採用方針にどんな変化が生じたのだろうか。
▼採用選考における企業の学業成績への関心は、経団連加盟の商社や製造業などの大手企業において広く見られる。今年は、とくに8月選考の学生のエントリーに際して成績表の提出を求める企業が少なくなかった。そして面接においても学生は、学業成績について質問されることが多かった。
例えば大手商社の場合、学生に対して「学生生活で頑張ったことは何か」という定番の質問で、ゼミやサークル、ボランテイアで活躍したという回答に満足することなく、「ゼミ以外の科目での成績はどうでしたか」「なぜ成績が悪かったのか」などと突っ込んでいた。
企業側の意図は、ゼミなどで活躍したという用意された回答だけでなく、もっと学生の普段の大学生活や関心のあり方を具体的に知ろうとしていたからだ。成績へのこだわりということでは、大手精密機器メーカーも同様で、面接において提出された成績表を見ながら、それらの科目を選択した理由や履修内容などについて質問をしていた。
ここでも学生の問題意識や勉学への取り組み姿勢を聞こうとしていた。このほか、学業成績をエントリーシート、能力検査と同じ比率で評価する大手食品、論理的思考を判断するために学業成績を評価するIT企業など学業成績の再評価をする企業が少しずつだが増えている。
▼なぜ成績重視の企業が増えたのか。ここ十数年、新卒の採用選考においては、学業成績を重視するという姿勢は、あまり見られなかった。ほとんど選考での評価ポイントは、志望動機やサークル活動、ボランテイア活動、旅行などの特異な体験や成果だった。では、なぜ企業は、大学教育の成果である成績を無視していたのか、その理由は次の3つだ。
1.学生を人物本位で選考しようという姿勢が強くなり、個性の発揮された場面や活動実績、個人の行動実績を重視していた。
2.大学の学業成績は、大学や教員による評価のバラつきが大きく、成績の良し悪しが人物評価につながらなかった。
3.選考時期が早く、2年生までの成績では、学生生活や人物の評価ができないので対象としなかった。
かつて採用活動の開始時期が、4年生の夏であった当時、企業は採用大学を指定し、応募者は成績優秀者に限定するという学校推薦制度を導入していた。だが、こうした成績優秀者だけに選別していたことが、活力のない人材を採用してしまったという反省から指定校制度を廃止し、自由応募制に踏み切って活力を取り戻したのである。
▼それから数十年、最近になって成績重視が復活したのはなぜか。ただし、成績重視といっても指定校制度や学校推薦制度の復活ではない。人物本位は相変わらずで、成績についてもっと掘り下げて評価しようという動きである。これは、学業成績優秀者の採用ではなく、学生生活の充実度を評価しようというねらいである。そのため学業成績は、大学の銘柄にかかわりなく、学生がどのような関心を持って学生生活をおくり、
何に挑戦してきたのかを具体的に示す成果として評価し、面接で聞くという姿勢に変わったからである。
これこそ政府が一昨年来、取り組んでいる大学教育の尊重と学生生活充実を掲げる「指針」への対応である。今年、その動きが一歩前進したのは、「指針」によって選考が8月になったこと、大手企業が期日を表面的であっても遵守したことが大きい。
このことによって企業は、学生の大学3年次までの成績表を評価できるようになった。人材を見極める材料が増えたのである。もちろん、成績を選考の材料にしている企業は、かつてのように成績優秀者イコール採用候補者とはしていない。成績重視と公表しただけで「大学の成績が良い人材だけを集めている」「成績が悪い学生は応募できない」「エリート集団だ」というような誤解をされないように気を使っている。
企業のねらいは、Aや優の数などでなく、学生の学業に対する関心や学生生活での取り組みについて、具体的に成績表などを見ながら質問して人物をより深く知って選考することがねらいだからだ。そして成績表こそ学生たちが、大学の教育をどう受け止め学生生活を過ごしてきたかがわかる。
▼このように「成績を選考の材料として活用する」という採用姿勢は、企業にとっては、大学教育への関心を深め、学生には、学業への意欲を高めるものになると期待される。とくに、大手企業には、成績重視を採用方針として掲げることによって学生たちが大学生活に真剣に取り組み充実した学生生活を送ってくれればよいと願っているふしもある。過熱した採用活動の反省と正常化への試みでもある。
そのためにも今後、企業は、採用時期の抑制とともに学業成績について書類を提出させたり、面接でどしどし学業について聞いたりしていくことが増えるだろう。大学が、就職予備校になってほしくないと願うのは大学ばかりでないからだ。
[15.09.15]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉
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