2015.06.30メールマガジン
グローバルとローカルは、役割が違う
企業も大学もグローバルが大流行で、グローバル人材の養成が急務だという。すでに文科省も大学を大胆にグループ分け、スーパーグローバルとしてトップ型に東大、早慶など13大学。牽引型に千葉大、明治、立命館、国際教養大など24大学を認定して本格支援を開始した。
その動きとともに文科省が2014年10月に開いた有識者会議では、委員を務めた冨山和彦氏(経営共創基盤CEO)が、大学をG(グローバル)型とL(ローカル)型に二分。G型は一部のトップ大学や学部に限定して、グローバルに通用する高度な人材輩出を目的とし、これ以外の大学・学部は地域経済の生産性向上に資する職業訓練を行う――という、抜本的な大学教育の改革を提言した。
たしかに北海道から沖縄まで多くの大学が世界で活躍する人材の養成を掲げて国際関係学部を設置し、グローバル教育を掲げている。結構なことだが、地方大学の場合、大学教育の内容や教員、学生の基礎学力、就職先をみると疑問は多い。その一方、日本創成会議は、2040年には地方都市の過半数が消滅すると宣告している。地域社会の発展を担う大学に新しい動きはあるのだろうか。大学はグローバルという熱に浮かされていてよいのだろうか。
▼かつて地方国立大学は、地元の伝統産業の発展のためや地域医療の担い手あるいは地元の小中学校の教員養成など地元専門人材の養成が役割だった。しかし地方国立大学が、ここ20年、総合大学化し、有名学部になるほど全国からの応募者が増え地元出身者が減少してきた。
さらに最近の求人ブームによって学生は、都市部のグローバル企業を志向、いまでは地方国立大学の学生は、地元就職をしなくなっている。つまり地元に根づいていない地方大学になりつつある。
▼そんなグローバルの喧騒のなかで地域の大学が地方自治体と提携するという新しい動きが出てきている。例えば敬愛大学は、3月に地元の千葉市と連携協定を締結した。その内容はこうだ。
1.産業人材の育成
2.中小企業の支援
3.地域商業の活性化
4.創業・新事業創出支援
5.観光振興
6.地域の教育力向上と子育て支援の充実
まさしく包括的に地域貢献に取り組もうというもの。
いささか手を広げすぎる感もあるが、地域に根差す大学として重要な課題ばかりだ。具体的な展開はこれからだが、例えば地元の産業人材の育成は、大学が地元企業とともに求める人材像を明確にして大学教育の方向を模索するものになるだろうし、どのように人材を発見し、育成していくか、企業と大学が連携していくで明確化されるだろう。
この連携協定は、行政では地域経済の活性化が第一の目標だが、大学がしっかりと地元社会に根づいてほしいという願いもある。そのため大学が、地元企業や商店街、地域住民と活発な交流をすることによって地域全体の成長発展にかかわることも期待している。
こうした大学側のかかわりの第一歩は、人材面では、インターンシップからだろうが、就職先として採用者が増えることや入社後の能力開発にまで及ぶことになる。企業側の人事制度についても同様で大学側の知見を賃金、評価制度などにおいてアドバイスすることにもなる。とくに地元中小企業への支援は、学生の就職先を広げ、魅力的な企業を育てることも期待できる。
▼そこで前述のG型とL型大学二分論に戻るが、富山氏の主張は、これからの産業構造は、グローバル経済圏では、自動車・電機・機械など製造業であり、大企業が中心となり、グローバルに競争し、世界水準での差別化が進み知識集約型になっていく。そのため雇用は伸びない。
これに対してローカル経済圏は、サービス産業、中堅、中小企業が中心になり、交通、飲食、卸小売、医療、介護など地域密着型の企業が成長、域内競争が激化し、雇用も長期的に増加、労働力不足が深刻化するとみている。
だが、こうしたローカル経済圏の課題は、地域人口の減少とともにせっかく大学に集めた若者たちの流出阻止であり、定住である。たしかに地元企業や地域社会には、まだまだ魅力的な企業や組織がない。やりがいやプライドをもって働く場が少ないということがある。それだからこそ前述の大学と地元との一歩踏み込んだ連携が必要になってくる。
だからといって富山氏の言うように地域の大学は、「生産性向上に資するスキル保持者の輩出」(職業訓練校化)を大学に要求するのは性急すぎる。
大学と地域社会との人的交流の活発化、イベントの共催、インターンシップ拡大、ボランテイア派遣、創業支援、大学施設の公開、地域経済に特化したシンクタンクの設立などの連携強化によって大学の基礎科目や専門教育、地域教育を開発していくべきだろう。それをL型大学といってもよいだろう。
だからG型=(イコール)エリート養成、L型は一般労働者の養成という、上下の関係にあるという受け止め方は、いかがなものか。横移動が可能な役割の違いにあることを見てほしい。
ユニバーサル化した大学の改革案について大学の危機的な状況と学生の実態を十分に承知している大学の学長たちも、富山案にアカデミズムを理解していないと、反発をしているのはいただけない。大きく変化している大学の役割を上から目線でなく、地域と大学との連携という足元から見直す地道な動きに注目したい。
[15.06.30]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉
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