2015.06.16メールマガジン

8月選考を迎えた学生の不安は企業の不安

16卒を対象とする採用活動は、6月中旬で山を越したように見える。これは、合同説明会や企業主催の企業セミナーの開催件数が激減したことやキャンパスにスーツ姿の学生の姿が少なくなったことから実感できる。

では、現在、採用活動は、どこまで進んでいるのだろうか?例によって当社のモニター調査の結果を紹介しよう。まず、5月下旬における学生の内定保有率である。男子学生で38.0%、女子学生25.4%、文系27.2%、理系39.3%、平均で30.0%となっている。この内定率は、昨年より上昇しているのか、内定ペースは、早いのか。前提が異なるので昨年と比較するのは厄介だが、試みてみよう。

つまり今年は、就職情報解禁日が、12月から3月に、選考開始が4月1日から8月1日にそれぞれ繰り下げられたからだ。それでも比較するとなれば、選考開始時期を無視して、就職情報解禁日からの経過月別の就職内定率の比較が手がかりになるだろう。

そこで今年の場合を見ると、就職情報解禁から1か月後の4月下旬に内定率は、12%(昨年は、12月から1か月後の1月下旬は、0%)、2か月後の5月下旬が30.0%(昨年の2月下旬は、3%)だった。就職情報解禁日が遅くなったのは結構だが、採用活動のペースがひどく早いのが驚きだ。

しかも早期内定を出した企業の多くが準大手企業であり中堅企業だった。就職人気の高い金融や商社、大手メーカーなど経団連加盟企業の多くは、一部で内定者を出しているにすぎない。多くの企業が、採用活動をしているにもかかわらず内定を留保、6月以降に持ち越している。ここに16採用を巡る経団連加盟企業の思惑と学生の不安、不満がある。

▼今年は、求人ブームの到来ということで学生にとっては、売り手市場に転じた就活ということで不安はないように見えた。だが、採用数の大幅増があったのは、中堅や中小企業ばかり。経団連加盟企業は、1割程度の上積みにとどまり、採用活動もスタートこそ早かったが、内定のペースは遅く、内定時期を6月以降にシフトさせている。そのため多くの学生が、第二志望企業にとりあえず内定、本命企業に備えている。その結果、多くの学生が、就活を終えることができないまま不安に陥っている。そうした学生の声を当社のモニター調査から拾ってみると。

1.「早くからリクルーターや裏ルートでの選考が進んでいる企業もあり、情報戦になっている点が不安。自分が行きたい企業がすでにかなりの枠が埋まっているのではないか」

2.「就職活動をしている中で、興味ある分野が広がった。でも自分は何がしたいのか、まだ確信が持てずにいるので早く内定を頂いても、その仕事が自分に合うのか、不安である」

3.「後ろ倒しになったことで、大手企業は、ESと適性テストを早めに受けさせているのに面接は8月から、合否がわからない状態で企業セミナーに参加させるのは理解できない」

4.「中小企業の選考のあとに大企業の選考があるため、中小企業から内定が出ても大企業も受けるつもりだというと「オワハラ」*を受けてしまう」

5.「内々定を得たものの、まだ大手企業の採用が残っているので、就職活動のやめ時が分からない」

▼こうした生の声とともにすでに内定を獲得した学生に質問したのが下記の設問。ここにも今年の採用活動の特徴が見えている。

質問1.「内定した企業への入社社意思は?」
・入社したい  39%
・できれば別の会社に  56%
・入社したくない  5%

質問2.「8月まで就活を続ける予定ですか?」
・続けない  18%
・続ける  58%
・わからない  24%

6割の学生が、内定を獲得したものの本命は他の企業だという。だから就活は、今後も続ける。企業にとっては不安な数字だが、学生の立場からは、当然のことだろう。これから8月にかけて本命である金融や商社など大手企業の採用が始まるからだ。ただし、これらの企業にどれだけ採用枠が残っているのかは不明。しかし、求人ブームだからこそますます就職人気の高い金融や商社に夢を賭ける学生が、多い。大丈夫だろうか。

▼こうした学生の不安と今後の就職活動は、実は、企業の不安でもある。どんな不安か、すぐ思いつくのは次の3つだ。1.内定辞退の続出、2.不本意就職者の採用、3.採用機会の喪失(8月以降の採用活動は、実質、困難)。ただし、これは準大手企業の場合。

経団連加盟企業は、1.長期間にわたる徹底選考で優秀人材の確保、2.学生にとって後が無い時期だけに内定辞退の激減、3.選考時期の引き下げという社会責任の達と結構づくめ。「指針」が遵守されるほど良い採用ができることになる。

一方、中堅・中小企業の場合は、今後、1.内定辞退の続出、2.採用計画数の未充足、3.採用活動の長期化という不安がある。そうなれば、新卒採用や企業活動の見直しという深刻な事態にもなりかねない。はたして、今後、経団連加盟企業とくに金融や商社など大手企業が、どう動くか、多くの内定者を抱えるライバル企業は、戦々恐々となっている。内定者に「オワハラ」を強めても効果はないだろう。これから夏にかけて各企業は、今から秘策を模索しているはずだ。

*オワハラ
「就活終われハラスメント(オワハラ)」。企業が内定を出す際の条件として以降の就職活動を終えるように働きかけ長期的に学生を拘束、確保する行為。文部科学省は、今年度、大学の就職支援担当部署などを対象に、実態調査に乗り出す予定という。

[15.06.16]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉

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