2015.05.19メールマガジン

16採用は、「粛々」と進んできたはずだが、状況変化の兆しあり

先の国会では、普天間基地の移転に関して菅官房長官が、「粛々と進めている」と答弁してヒンシュクを買ったが、粛々とは、広辞苑によれば、本来【慎む・静か・厳か】という意味だそうだが、今年の採用活動を見ると、「指針」のもとで、静かに、慎み深く進んできたように見える。大手金融機関の採用担当者も「粛々と進めている」と表現していた。

だが、「粛々と進めている」という表現は、政治家や官僚の答弁では、しばしば「世論や反対意見を押し切って物事を進めている」という時にも使われる。つまり、この言葉は、穏便な表現をする割には、実際には、強引に実態を隠すときにも使われているのだ。そこで、16採用の前哨戦に隠されて、「粛々と進めている」暗黙の活動や合意がどれほどかを以下にみてみよう。

▼たしかに「指針」初年度の16採用は、連休までは意外なほど静かに進んできた。新ルールとなった就職情報の解禁日である3月1日は、これまでになく就職情報サイトのオープン、大学内の企業説明会、合同説明会などが足並みをそろえた。例年なら秋から年末にかけて大盛況のインターンシップや企業研究会、OB・OG懇談会も激減、静かな新年となった。恒例の外資系企業やITベンチャーなどの青田買いも動きが緩慢だった。その結果、学生の内定率は、当社のモニター調査によれば、2月下旬で2%、3月下旬で3%にとどまっていた。しかもこの内定を出した企業は、ほとんどが中堅企業だった。

▼16採用が、動き出したのは、就職情報が解禁された3月から。この時期から学内説明会、合同説明会、エントリー受付がスタート、企業と学生の接触が始まったのは、4月上旬から。そのため4月下旬の就職内定率は、12%だった(昨年4月下旬、54%)。もちろん、採用活動のルールが変わったので同列には論じられないが、採用活動(とくに内定出し)が、確実に遅くなった。

▼このように16採用の前半は、「指針」に沿って秩序ある経過をたどったといえよう。これは、当初の予想どおりだ。その根拠は、次の3つだ。政府が提唱した「指針」が初年度であること、選考開始までの期間が長いこと、採用活動の通年化が進んだこと、などだ。だが、こうした要因のほかに安倍首相による経団連首脳に対する強烈な協力要請があったことも見逃せない。

▼しかし、これまで企業は、学生を選考していなかったのかといえば、そうではない。従来のように早期に特定大学の学生に限定して、リクルーターが個別に学生と面接、順次、内々定を出すという方式でなく、今年は、早期に学生を小規模単位で集め、若手社員と自由に語らせ、社風や仕事をたっぷり見せることで学生のスクリーニング(ふるいわけ)をすすめていた企業が少なくなかった。その目的は、ミスマッチ防止にある。採用力のある人気企業ほど企業と学生の“相性”を模索するようになったのである。そうしてお互いが“相性”を見極め、合意したのが4月末。それが早期内定とささやかれた一部学生たちだった。その数は、採用計画数の3割程度と推測(邪推?)される。

▼では、これからどうなるか。「指針」に定めたように8月1日から一斉に選考、内定出しが始まるというのは、楽観的過ぎる。ある調査(実施時期は、14年末)では、大手企業の面接開始は、3月開始、4月でピークとなり、内定出しは、4月から始まり8%、5月に8%、6月12%、7月16%、そして8月以降に53%になると予測していた。

だが、この予測は、留保条件付きである。就職情報解禁から選考開始までが長すぎるからだ。企業の多くは、「状況次第で対応する」という。そのため多くの企業では、採用スケジュールに柔軟性を持たせている。例えば、商社や保険、商社などの大手企業の選考フローは、3月からエントリーシートを受け付け、7月まで面接、8月内内定を出すと公表しているものの小人数セミナーを5月から頻繁に開催、優秀人材を囲い込みながら8月選考をにらんでいる。

これに対して大手製造業は、大量採用する技術系採用(院卒が中心)を優先、夏休み前に決着を図ろうとしている。そこで事務系の採用については、エントリーシートの受付を4月、5月、6月などと分散している。採用活動の通年化である。これらの動きから当然、準大手企業や中小企業の採用は、夏以降となるので不安に陥る。だからといって早期に内定すれば、学生の内定辞退は、避けられない。そのため企業は、さまざまな手法で学生の内定辞退を阻止しようとする。その露骨な手法が、「誓約書」の強制や過度な接待攻勢、海外招待旅行、高額な社内アルバイト、さらにリクルーターによる執拗な内定者フォロー(管理)などだ。

しかし、これら早期内定企業の拘束強化に対抗するように5月下旬からは、大手企業の採用活動が、いよいよ表面化してきた。大手企業が、とうとう我慢しきれずに一斉にリクルーター組織の全面稼働に乗り出したことや早期採用組の選考が適性や学力のWEB検査を終え、人事面接の段階に入ったからだ。まさに「状況が変化した」のだ。そうなると16採用は、残念ながら「粛々と進んでいる」から「一気に進んでいる」と言い
換えることになりそうだ。

[15.05.19]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉

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