2015.04.14メールマガジン

地方創生を担うエリア採用に注目

▼恒例の日本経済新聞社の「2016年春の採用計画調査」が発表された。この調査によれば、今年の企業の新卒採用計画数は、15年春の実績見込みに比べて大卒で、14,2増と5年連続増となった。こうした採用数の増加は一般には、注目され、歓迎されるところだが、その採用計画のなかで、グローバル採用とエリア採用の動きに注目したい。

グローバル採用は、事業の海外展開担う人材ということで海外の大学を卒業した学生や日本の大学で学んだ留学生が対象であり、経営トップも強調している。それだけに毎年、企業が採用目標人数を掲げ、話題を呼んでいる。その一方、エリア採用はどうか。これは、全国規模の大企業が勤務地を地方に限定して新規大卒者を採用する制度だ。この採用制度は、かつては高卒採用や非正規型の雇用で見られたためか相変わらず地味な扱いとなっている。今年の採用計画調査では、各企業とも採用計画数を明らかにしていないが、ここ十数年、グローバル採用とともに採用枠を徐々に広げてきていることは見落とせない。

▼新卒採用においてエリア採用が普及してきたのは15年前。それまでのエリア採用は、事業所の一般職の採用制度だった。採用対象は高卒や短大卒の女性が中心で職種は、事務、販売がほとんど。しかし、10年前頃からは、大手企業の国内事業所の統合と再編、企業全体の人材力の引き上げ、理工系人材の採用難、優秀女性人材の採用といった理由から地域限定のエリア採用を試みる企業が相次いだ。

その先進例は、大手の銀行、保険会社のエリア採用だった。地域の顧客開拓や窓口業務の高度化、相談業務の高度化とともに採用数が増えてきた。特定職、アソシエイト職、CS職、ビジネスキャリア職といった名称がそれだ。

これに対して製造業各社の対応は遅かったが、10年前に大手製造業M社の「配属予約採用(技術系のみ)」が登場、話題になったことで存在が知られた。同社は、世界のトップレベル企業だが、その製品やシステムを専門に開発、生産している事業所が全国に分散している。そのため自分の専門性を生かしたいという学生は、地方の事業所への就職関心が高い。こうした学生は、地方の事業所、工場に就職することによって職種や配属、イメージにギャップのない就職ができる。地元大学の学生も同様で地元の大企業の事業所に就職することができる。

しかし、そのためには、地方の工場や事業所でも望む人材を本社任せでなく自分たちで採用活動をして応募してきた学生に面接選考を行い、内定を出す体制が求められることになる。これによって事業所は、若手人材の採用から能力開発、キャリア支援に責任を持つことになった。このようにして同社では、学生の就職人気も上昇し、地方の優秀人材の採用に成功しただけでなく、地域の研究開発、技術水準の高度化という面で
も地元に貢献するようになった。

このほか、エリア職の新しい試みは、最近では、大手の金融機関(保険、証券、ノンバンク)や不動産、ファッション、小売り、サービス産業でも登場してきた。なかでも大手損保のエリア職は、キャリアパスの体系も明確で注目されている。同社のエリア職は全国型総合職とエリア型総合職の並列である。処遇も同等。その違いは、「転勤の有無」に関する事項のみであり、同じ役割等級であれば同じレベルの仕事を担っていくという。今後のエリア職の方向ともいえよう。

▼このようにエリア採用は、まだ限定的だが、少しずつ広がっている。まだ課題が多いからだ。グローバルな視点を持つ人材が育成できない、さまざまな勤務地や職場を経験させる基幹人材の育成ができない、社員相互の競争意欲が後退する、教育研修が非効率などの問題だ。だが、これらの課題は、いくつかの改善策によって解決できる。例えば、事業の広域プロジェクト化、人事交流の活発化、FA制度や社内スカウト、エリア職のキャリアパスの開発、処遇の改善、全国型総合職との相互乗り入れなどだ。

今後は、勤労観や家族関係の変化により地元の大企業を希望する学生は増えていくだろう。そうなると、新卒採用を本社で一括採用することも見直すことになる。これは、地方大学にとっても地元大企業との連携を強めるチャンスであり事業所(エリア)単位での採用の可能性を探り、情報交換をするべきだろう。人材を巡っての地方と中央の争いは、企業だけでなく公務員採用でも同様だ。今後、地方の優秀人材の採用活動は、激化するだろう。政府の掲げる「地方創生」とは、「1.若者の就労、結婚、出産の支援 2.東京への一極集中の是正 3.地域の特性の尊重」という。エリア採用は、この政策課題の一端を担っているといえよう。

[15.04.14]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉

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