2015.03.17メールマガジン

新卒採用の立法化は歓迎してよいのか

2月下旬に開会した通常国会における安倍首相の施政方針演説を聞いただろうか?
アベノミクスによる財政改革や経済団体への賃上げ要請などとともに雇用改革にも本格的に着手するという。具体的には、労働時間の規制撤廃、派遣労働の緩和、多様な働き方の容認などのほか、若者雇用対策にも言及していた。
その取り組みにおいては、それぞれ立法化も視野に入れているというから見逃せない。その動きを紹介しよう。

▼今回の施政方針演説の背景には、経団連の経労委報告(1月20日発表)と労働政策審議会の分科会報告書「若者の雇用対策の充実について」(1月23日に建議)がある。経労委報告は、前号で取り上げたので、本号では、分科会報告書の内容を紹介しよう。

報告書は、以下の5本柱で構成されている。

1.新卒者の就職活動からマッチング・定着までの効果的な就職支援
2.中退者、未就職卒業者への対応
3.フリーターを含む非正規雇用で働く若者に対する支援
4.企業における若者の活躍促進に向けた取り組み
5.これらの施策推進に関する関係者の取り組み

以上5項目だが、どれも企業の採用担当者や大学の就職支援関係者にとっては関心の高い話題だが、ここでは「新卒者の就職支援」を取り上げてみよう。

▼報告書は、若者が充実した職業人生を歩んでいくためには、学校段階から効果的な就職支援を行うことが必要だとして、職業についての理解を深めること、労働関係法の知識を深めること、インターンシップを推進することの3点を強調している。

職業についての理解では従来のキャリア教育の拡充とともに労働関係法の理解や関連機関の利用法を指摘している。注目されるのは、「労働関係法の理解」という部分である。過酷な残業や不公正な処遇、パワハラなどブラック企業の氾濫への対抗策だが、企業の経営方針や社風に関連するだけにキャリア教育なのか、就職対策としての企業研究なのか、誰が教育できるのかなど、難しくて微妙な課題である。

インターンシップについても奨励するだけでなく、どんな内容なのか、対象学年や就業期間、募集方法など定義と実態とのかい離や今年のように予備選考化していることへの抑制策など、大きな課題が待ち受けている。

▼マッチングの向上については、踏み込んだ提言をしている。すなわち求人する企業は、学生に募集から就労に至るまでの労働条件の的確な表示、職場情報の積極的な提供ということで次のような情報を公表せよと要求している。

1.募集採用に関する状況(過去3年間の採用者数及び離職者数、平均勤続年数、過去3年間の採用者数の男女別人数等

2.企業における雇用管理に関する状況(前年度の育児休業、有給休暇、所定外労働時間の実績、管理職の男女比)

3.職業能力の開発・向上に関する状況(導入研修の有無、自己啓発補助制度の有無)

これらの情報は、応募した学生が求めた場合、企業は情報提供しなくてはならない。応募する学生にとっては、知りたい情報ばかりだが、これまで多くの企業では、あいまいに表示したり無視したりしてきたのは事実。
その現状は、東洋経済新報社の「就職四季報」を見てもわかる。
そこでは、人気企業や金融機関ほどこうした採用実績の開示に消極的なのだ。
この現状を打開するのが今回の行政の要請だが、企業側がどこまで対応するのか、企業側にとっては、採用の手の内だけに前途多難だろう。

このほか若者に係る雇用管理の状況が優良な中小企業については、政府が認定制度を創設して積極的に中小企業の新卒採用を支援することも提案している。

▼このように若者就職支援策は、政策課題として急ピッチで進んでいる。今回の報告書を受けて厚生労働省では、2月27日に上記の新卒者の就職支援策のほか、労働関係法令違反の求人企業については、ハローワークで新卒者の求人申込みを受理しない仕組み、キャリアコンサルタントの登録制の創設などを盛り込んだ法律案「勤労青少年福祉法の改正」を作成し、今国会に提出する予定だ。

こうした動きは、これまでまじめな採用活動をしてきた企業や学生のミスマッチなき就職支援に取り組んできた大学にとっては、朗報であり、歓迎だろう。だが、3月に入って若者就職支援にとってさらに新しい課題が出てきた。先に決定された「指針」の遵守状況である。
すでにマスコミ各紙が報じているように「不統一」であり、多くの企業によって形骸化されているという。

これは、8月選考を経た採用活動の結果を見ないと論じられないが、採用活動の早期化や未就職者の増大、中小企業の採用難が深刻化すれば、新卒採用の問題は、マスコミや国会でも大きく取り上げられるのは間違いない。そうなれば、政府の苛立ちから「指針」の立法化も議論されることにもなりかねない。今国会の会期は、6月24日までだから先にあげた法案に加えて「指針」の厳格運用に向けての立法化の動きも出てくるかもしれない。

しかし、新卒採用をめぐる様々な立法化は、企業にとって歓迎してよいのだろうか。採用活動が本格化する時期だが、国会の動向に採用担当者も目を向けていてほしい。

[15.03.17]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉

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