2015.02.17メールマガジン

今年の経労委報告を読む

◇経団連は1月20日、15年度の「経営労働政策委員会報告」を発表した。これは春闘や労働政策について経営側の考え方や基本方針をまとめたもの。人事、労務、採用担当者なら一通りは、目を通しておくべき文書である。

◇今年の主なポイントは、東日本大震災からの復興と経済の好循環実現に向けての規制改革などを求めるものになっている。とくに雇用・労働問題に関する政策的課題としては、「労働時間改革の推進」や「多様な働き方の推進」「労働者派遣法の見直し」などを掲げている。このうち経済の好循環実現については、消費税増税によるデフレの影響を危惧し、2年連続で賃上げ容認の姿勢を見せた。しかし賃上げは、一時金や諸手当を含めた年収ベースの引き上げなど「さまざまな方策」を提案、基本給となるベースアップ中心の賃上げ要求にくぎを刺した。さらに業種や業態、企業規模などによって収益に大きな違いがあるとして「実態にそぐわない要求には疑問がある」と経団連らしい牽制をしている。

◇目に付いたことがいくつかある。これは、経労委報告の第2章にあるのだが、「女性の躍進推進」「グローバル人材の育成と活用」「健康経営の推進」といった課題だ。前の2項目は予想がつくが、「健康経営の推進」とは何か。その説明は、企業が従業員の健康増進に積極的に関与し、健康でいきいきと働く職場づくりをめざす、ということ。最近、労災の件数が増加することに加えて従業員の精神疾患が急増、企業として地道で綿密なメンタルヘルス対策を推進する必要があると訴えている。具体的には[1]健康経営計画の策定、[2]産業保健スタッフとの連携強化、[3]従業員本人のメンタルヘルスケアの意識づけなどをあげている。本年から労働安全衛生法が施行されたからだろうが、経団連も従業員の安全やメンタルヘルス問題が深刻化していることを認識、ようやく従業員の健康問題に取り組み始めたようだ。

◇採用担当者として注目したい記述もある。「多様な無期契約社員の活躍推進」という部分だ。一見、意味不明だが、報告書を読むと勤務地や職種などを限定した社員の活用をはかれという。そのため企業は、さまざまな労働条件を組み合わせた社員区分を整備せよといっている。その一方で「不本意なまま有期契約社員として就労しているものに対して活躍の場を広げる」ことも要望している。だが、これは非正規を正規社員にせよということではない。その一方で、「グローバルに活躍するプロフェッショナルを国全体で育成する環境を整えるためにも、勤務地や職種などを限定した無期契約社員の活用が重要である」ともいう。ここには、人材二極化の姿勢が露骨に見える。

◇報告書では、若者雇用の課題も提言している。ページ数こそ少ないが、採用担当者として見逃せない記述がある。学生の適職選択に向けて雇用実態にかかわる企業情報の提供を義務化することや若者の採用・育成に積極的な中小企業の認定制度の創設などだ。すなわち企業は、募集・採用に関しては、「過去3年間の採用者数及び離職者数」、雇用管理では「育児休業、所定外労働時間の実績」、能力開発においては「導入研修の有無」などの情報提供を義務づけるという提案だ。実際にここまで企業が情報公開できるのか疑問だが、経団連が言い出していることは評価してよい。これを受けて、政府は、先の安倍首相の施政方針演説でも「新卒者を募集する企業に情報提供を求める」ことや「若者の使い捨てが疑われる企業からの求人をハローワークでは受理しない」と述べ、立法化を示唆していた。政府は、本気で取り組むようだ。

◇もうひとつ若者雇用の課題として「指針」をコラムとして紹介していた。「指針」の経緯については、政府の「日本再興戦略」を受けて採用選考活動を見直したと受け身の姿勢を示した。そのためか「指針」の「手引き」を改定し、そのポイントを誇らしげにあげている。従来、広報活動開始前には自粛されていた学内セミナーについて条件付きで認めたこと、効率的な選考活動の実施とマッチング機会の拡充のための選考活動開始日前のWEBテストやエントリーシートの提出による事前スクリーニングを容認した、など、参加企業に対する徹底遵守、厳格運用には触れることなく、緩和した点をあげていた。このように今年の経労委報告は、昨年に続いて官製春闘への警戒感を示しながらも大筋では温和な姿勢を示し、若者雇用についても政府の政策を支援、追認するだけのものだった。

当面、アベノミクスの大きな潮流は続くだろうし、経済の好循環実現に向けての規制改革は、労働、雇用、若者雇用などの分野においては、ますます政府主導で大胆な改革が進められていくことになるだろう。採用活動開始時期となったが、今後の採用戦略のためにも雇用政策の大きな流れに目を向けてほしい。

[15.02.17]
就職情報研究所 顧問 夏目孝吉

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