2024.12.17メールマガジン
自分を活かせる“場”を欲する学生
新卒採用では「カルチャーフィット」を重視する傾向があります。
理念やパーパスを大切にしている企業ほど、組織文化にマッチした人材を求めているように感じます。そこまで強く意識していなくても、実務経験のない学生を選考するのですから、言語化しにくい相性といった要素がものを言う場面は、新卒採用では少なくありません。
科学的アプローチを導入した採用、例えば、求める人材像を明確にして、評価する要素(自己マネジメント力、リーダーシップ、ストレス耐性・・・等)を特定し、構造化された面接で選抜していく手法は、面接官の主観やバイアスが入りにくいため、偏りの少ない学生情報を収集できます。しかし、そうした採用選考で評価の高かった新卒人材が、現場でなかなか成果を出せないという話はよく聞きます。なかには、期待はずれといった評価をくだされてしまうケースもあるようです。
選考で優秀と判断された人材が、現場では真逆の評価になってしまう。これは、あり得る話でしょう。仕事は一人で完結するものではないからです。人と人とが関わりを持ちながら、協働することで成立します。人の能力(持ち味)は単体では意味を成さず、それを発揮できる“場”があって初めて活かすことができます。だからこそ、企業は言語化しにくい「カルチャーフィット」を採用選考で重視するのでしょう。
これを学生視点で考えれば、自分の能力(持ち味)を発揮しやすい“場”を探すことが重要となります。先日『配属ガチャ→上司ガチャ 変わる新入社員の不安』(日本経済新聞、11月22日朝刊)という記事を読みました。「配属ガチャ」の次は「上司ガチャ」を不安視する学生の様子を伝える内容に、ため息をつく大人は多いだろうなと思いつつ、一方で、自分を活かせる“場”を求めていると見れば、上司に着目する学生の嗅覚は鋭いとも感じました。
しかし、自分を活かせる“場”の条件が多すぎる・・・というのも問題です。「自分の話に耳を傾け、丁寧に指導してくれる職場でないと」「希望する部署で、自分のことを理解してくれる上司でないと」では、仕事になりません。
行き過ぎれば、担当業務が上手く進まない理由を、「クライアントガチャ」「業務ガチャ」といった言葉で説明し始めるかもしれません。自分に最適化された“場”でないと、能力(持ち味)が発揮できないのであれば、それは無いものと同義になってしまいます。
キャリア理論の「プランド・ハップンスタンス(計画された偶発性理論)」(※1)で言われるように、キャリアは多くの偶発的な出来事によって形成されていきます。ガチャという偶発性を避ける学生傾向は、長期的なキャリア形成においてマイナスに作用するように感じます。しかし、確実で見通しの良いキャリアパスを求める気持ちは理解できます。彼らの大学生活に「想定外の出来事」というものが少なくなっているからです。
昔のように、大学に来てみたら急な休講でぽっかりと時間が空いてしまった、ということはありません。手続きはルール化され、学内ポータルサイトから申請すれば、すぐに学生へアナウンスが入ります。学生側に想定外の出来事が起きても、例えば、パソコンのトラブルで期日にレポートが提出できなかったときなどは、一定の配慮をするケースがほとんどです。思いもよらないことに、自分で対処する経験が少ない大学生活と言えるでしょう。
高いスペックを持っているのに、それを発揮できない新卒人材が増えているように感じます。変化の早い社会のなかで仕事をしていくには、偶発的な出来事にも、想定外の出来事にも対応していく必要があります。たまたま配属された部署で、偶然一緒に仕事をすることになったメンバーと、それなりに上手くやっていくスキルというのは、今後さらに重要になっていくのではないでしょうか。
あと3ヶ月ちょっとで、25年卒生が新社会人になります。いまは卒論の提出に向けてがんばっている学生も多くいるはずです。学業や大学生活で獲得した能力(持ち味)を仕事で発揮するには、活かせる“場”を欲するよりも、そうした“場”を自ら作り上げていくことが大切でしょう。残りの大学生活を謳歌しつつ、新社会人として求められる心構えも整えていってほしいと願っています。
〔就職情報研究所所長平野恵子〕
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※1
プランド・ハップンスタンス(「日本の人事部」HRペディア)
https://jinjibu.jp/keyword/detl/974/
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