2024.07.16メールマガジン
新卒人材には「メンバーシップ型」が適していると考える理由
先月、富士通が26年卒採用から新卒人材にも「ジョブ型人材マネジメント」を適用することを発表しました(※1)。これは、初任給をジョブや職責によって差を設けることで、専門スキルを持った人材をより効果的に評価しようという試みでしょう。同社はこれに合わせて、1~6か月にわたる長期の有償インターンシップを拡充することも伝えています。
ジョブ型人材マネジメントと言えば、日立製作所が意欲的に取り組んでいることで有名です(同社は「ジョブ型人財マネジメント」と表記)。いち早くインターンシップにジョブ型プログラムを導入し、参加人数を増やしています。今年2月には、一人ひとりのキャリアニーズとジョブのマッチングを重視した「パーソナライズ採用」を推進していくことを発表しました(※2)。
両社の取り組みは、高度専門人材の獲得を最優先にするグローバル企業として、適切かつ効果的な戦略です。そこに全く異論はないのですが、ターゲットになる学生は、一部の理工系学生に限られるでしょう。富士通が実施する長期インターンシップも「より明確なキャリア志向を持ち、専門スキルを磨いて豊富な経験を積んだ人材向け」です。
また、日立製作所は2020年から「入社式」を「キャリア・キックオフ・セッション」という名称に変え、新入社員にもキャリア自律を求めてきました。ファーストキャリアのジョブ選択に根拠を持ち、主体的なキャリア形成を期待するのであれば、実学を修めた理工系学生に一日の長があるでしょう。
私が疑問に思うのは、一部の理工系学生がメインターゲットになりそうな「ジョブ型」なのに、広く新卒人材に当てはまるような取り上げ方をメディアがしていることです。「メンバーシップ型」より「ジョブ型」の方がこれからの時代には合っている。だから、学生も大学生活のなかで卒業後のキャリアの見通しを持った方がいい。そんな世の中の空気を敏感に感じとり、学生は「やりたいことが見つからない」「自分に合った職業が分からない」と焦りを強くしていきます。
最近では入学して間もない1年生から、インターンシップについて相談されることも珍しくなくなりました。低学年から実社会に触れることには賛成ですが、就職活動を有利に進めるために参加すると言われると、複雑な気持ちになります。
インターンシップを通して、仕事適性や望む働き方が見えてくるといった考え方にも少し懐疑的です。数ヶ月単位のインターンシップに参加するのであれば話は別ですが、単日もしくは数日のプログラムに参加する程度では、自身のキャリア形成を考える欠片のような手がかりが得られる程度でしょう。企業が採用を意識して、お客さま扱いしていれば尚更です。
学生の立場で、社会人として仕事をする自分をイメージすることは困難です。学生から社会人への移行を、私はよくオタマジャクシからカエルへの変態(メタモルフォーゼ)に例えるのですが、水の中(大学)で生きているオタマジャクシ(学生)に、陸(実社会)で生活するカエル(社会人)になった自分を想像しろと言っているようなものです。
社会人になって初めて見えてくることがあります。仕事を教えてもらいながら、少しずつ社会人としての自己理解を深め、組織社会化(新人が組織に適応し定着していくプロセスのこと)が進んでいく。こうしたキャリア形成の初期プロセスには「メンバーシップ型」の人材マネジメントの方が適しているはずです。そして、ある程度の経験を積み、主体的なキャリア形成ができるようになったら、「ジョブ型」に移行するのが適切ではないでしょうか。
学生自身が「ジョブ型」を希望する傾向にあるという調査データは確かにあります。しかしそれは、避けたい配属先があったり、希望する勤務地で生活基盤を整えたかったりする気持ちの表れです。目指すキャリアが明確ゆえの「ジョブ型」希望とは言えません。
新卒人材はまだ何者でもなく、何者にもなれる可能性を秘めています。社会人としての自我が形成され、キャリアの見通しが立つまでは、メンバーシップ型の人材マネジメントが適していると考えます。その意味で、メンバーシップ型はもっと高く評価されても良いはずです。昨今のジョブ型一辺倒な風潮には疑問を感じます。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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※1
新卒採用への「ジョブ型人材マネジメント」の拡大について
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/06/21.html
※2
人的資本の充実に向けた2025年度採用計画について
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2024/02/0228a.html
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