2024.10.08メールマガジン
就職活動で学生が「群れ」を形成する理由
先週10月4日(金)に開催した弊社「25卒総括セミナー」で『25卒就職・採用戦線総括報告』をさせていただきました。
そのなかで、大手企業の早期化が目立ったこと、学生の3人に1人が「採用が始まる時期が早すぎる(33.7%)」と回答していることなどを紹介し、早期化への懸念を個人的意見としてお伝えしました。新卒採用の「日程ルール」は、何らかの対応が必要な時期にきているように感じます。
今後の「日程ルール」の在り方については、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が今年4月に発表した報告書『産学連携による高度専門人材育成と、未来志向の採用を目指して』(※1)に経過報告として記載があります。
●『産学連携による高度専門人材育成と、未来志向の採用を目指して』Ⅳ.2030 年に向けた採用のあり方について(経過報告)
2)新卒採用日程ルール(60Pより一部引用)
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大学側においては、「学生にとって、主体的で多様な選択肢があることは必要だが、学業に専念する期間はしっかりと守られる必要がある」との意見が主流であった。(中略)無秩序な多様化・完全自由化には反対であり、一律に日程ルールを撤廃することには極めて慎重な姿勢が示された。
他方、企業側は、現状や今後の社会の変化を踏まえると、2030年には通年採用が一般的になっているのではないかとの見通しが示され、ルールで就職・採用活動を縛るという現行の方式は限界を迎えているという意見が数多く出された。
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大学側は日程の自由化には反対という立場を示し、企業側は「日程ルール」の存在自体が時代に適さないという考えを伝えています。両者の意見は大きく乖離していますが、教育界と経済界という異なる立場からの意見であり、それぞれの正当性があるはずです。ただ当事者である学生の立場で考える、という視点が薄いように感じます。
この報告書のなかで、両者の共通認識として『産学ともに、主体性があり意識の高い学生については問題ないと考えられるものの、就職活動に主体性をもって取り組むことができない学生(乗り遅れる学生や周囲の動きに流されやすい学生)への対応が議論の焦点となった』(59P)という一文があります。
つまり、主体性があり意識の高い学生であれば、周囲の動きに流されずに、自らのタイミングで就職活動することができる。そうなれば学業が阻害される可能性は低く、日程ルールも不要になる・・・という認識が両者で共有されたといえます。だからこそ『学生のキャリア観を醸成するために、キャリア教育を産学連携で推進・拡充することが重要との認識を産学で共有した』(62P)のでしょう。
本当に、キャリア教育を推進・拡充させれば、学生は周囲に流されない就職活動ができるようになるのでしょうか。学生のキャリア支援をしている私の感覚になりますが、難しいように思います。学生は実社会経験が乏しく、社会的な弱者といえます。それゆえ、弱者の戦略として「群れの形成」が自然と生じてしまうと私は考えています。
例えば、小さな魚が群れをつくるとき、1匹1匹に「群れを形成しよう!」という意識はありません。3つのルール、
(1)近くにいる魚から離れすぎない、
(2)近くにいる魚と近づきすぎない、
(3)近くにいる魚と同じ方向に動く、
というルールに従って動くだけで、勝手に群れが形成されていきます。
これは『Boid(ボイド)モデル』(※2)と言われるもので、就活生の行動様式に似ていると私は感じています。
生まれて初めて経験する就職活動に不安を抱かない学生は少ないはずです。だからこそ「自分の周囲にいる同級生が動き出す時期に、だいたい同じプロセスで、似たような情報やサービスを活用して就職活動を進めていく」学生が大半です。リクルートスーツがある時期から黒一色に統一されていった過程も、同じ理屈ではないでしょうか。
キャリア教育を充実させて、日程ルールをなくしても、多くの学生は無意識に群れをつくり、いくつかの群れが合流することでピーク期を形成しながら、個々のファーストキャリアを決定していくように思います。
日程ルールの取り決めは、大人の理想や都合を反映させて、上手くいかなかった過去が幾度となくあります。キャリア意識の高い学生や就活トレーニングで理論武装した学生ではなく、普段着の学生の日常的な大学生活を理解し、それを肯定した上で、今後の日程ルールについて考える必要があるように思います。意識高い企業と意識高い学生をメインにした日程ルールにならないことを願います。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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※1
産学連携による高度専門人材育成と、未来志向の採用を目指して
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/036_honbun.pdf
※2
Boid(ボイド)モデルイメージ
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