2023.03.17メールマガジン

大学と組織の育成バトンリレー

新卒採用や就職活動、キャリア教育などをメインにお仕事をしていますが、学生が円滑に社会人へとトランジット(移行)するには、この支援分野だけでは限界があるように思い始めています。テクニックや手段を駆使して“シュウカツ”を乗り越え、「社会人」と呼ばれるようになっても、組織というフィールドで“仕事をする”ことが難しくなっているように感じるのです。

4年間という大学生活で経験することだけでは、職場や仕事に適応できるだけの成熟さを得ることが難しくなっているのではないでしょうか。入社後、早々にドロップアウトするケースは珍しくなくなっていますし、「言われたことはやるが、言われたことしかやらない」など、育成面の相談を受けることも増えています。

大学でキャリア教育にかかわる立場で言えば、入学時点の成熟さがすでに違います。大学生活でも、以前ほど多様な人間関係や経験を得ることが難しくなりました。SNS情報などがリッチになり、人を介さずとも、スマホ1つで対処できることが多くなっています。ネット情報の活用能力は向上していますが、体験から得られる人間的な成熟度は低下していると言えるでしょう。

また周囲からの配慮やサービスが手厚くなったことで、自分で物事を考え、決断する場面が減りました。受け身でいられる子供の時間は、ますます長くなっています。新卒人材の育成を考える際は、以前とスタートラインが異なることを念頭に入れる必要がありそうです。従来のように新入社員研を終えたら、あとは現場のOJT(On-the-Job Trainingの略)で対応・・・といったスタイルでは、学生から社会人へのトランジット(移行)が難しくなっています。

各部署に配属してOJTに入る手前で、ワンステップを追加する方法を個人的にはお勧めします。
鮭の稚魚が海に出ていくまでのプロセスで例えると、以前の「川(高校)→汽水域(大学)→海(職場)」というプロセスに“生け簀”を追加して、「川(高校)→汽水域(大学)→生け簀(追加の育成期間)→海(職場)」となるイメージです。

川の上流で生まれた稚魚は、成長しながら川を下り、真水と海水が入り交じった汽水域でしばらく体を慣らします。この海水で生活するために準備を整える期間が、大学生活にあたります。以前は、この汽水域があれば、概ねスムーズに社会人へと移行できました。しかし、それが難しくなっているので、ワンステップを加えて、生け簀プロセスを設けるわけです。

この「川(高校)→汽水域(大学)→生け簀(追加の育成期間)→海(職場)」で育成を考える場合、NTTデータの「本部内インターンシップ」が参考になるでしょう(※)。
新入社員でチームを組み、3ヶ月毎に事業部別のジョブを経験しながら、1年間かけて育成する取り組みです。ここでの育成は実務スキルではなく、主体性やチームワークの醸成を目的にしています。複数の部署や社員と協働して、組織として成果を出すには、現場に入る一歩手前で、社内リソースを活用するトレーニングが有効なのでしょう。

生け簀ステップでは、ジャンプをすれば手が届くレベルの育成用業務を用意したいものです。複数の部署と連携する必要があるものが適しているでしょう。「業務マニュアルの改訂」や「デジタル化の検討」などであれば、関連部署とのやりとりが生じますし、組織全体の仕事の流れを理解することもできます。手取り足取り教えることはせずに、見守り、伴走するスタイルの育成者を置い
て、安心して失敗できる環境を整えることも大切です。

大学でキャリア支援にかかわる立場としては、4年間という時間で、できる限り成長を促したいと考えていますし、工夫や努力をしているつもりです。しかし、人の成長に近道はありませんし、タイパ(タイムパフォーマンス)重視では、テクニックや手段に頼りすぎてしまいそうです。時間がかかることを前提に、大学と組織の育成バトンリレーをつないでいきたいと願っています。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕

※ NTTデータ「本部内インターン」について
https://jinjibu.jp/article/detl/tonari/2947/#heading_2_3

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