2023.12.19メールマガジン
今年を振り返って~早期化の行く末~
新卒採用の早期化が、ひときわ目立ってきたように感じます。
プレ期に行われる早期選考は、数年前まで一部の学生を対象にした限定的なものでしたが、25年卒採用ではかなり一般的な選考ルートになりつつあります。国の就活ルール(※1)では広報開始が3月、選考開始は6月ですが、大学が春休みに入る2月になれば、多くの企業が採用選考を進めていくでしょう。
現2年生(26年卒生)を対象にした就活プロモーションもはじまっています。年明けに開催される就活イベントの告知を目にしました。来年にかけて、もう少し早期化が強まると言えそうです。しかし、過去の就活ルール(就職協定)の歴史を見るかぎり、この辺りが限界でしょう。
学生は就職活動を通して、少しずつ企業を見る目を養い、キャリア観(働く目的や大切にしたい価値観)を醸成していきます。親やアルバイト先の大人など、数人の社会人しか知らなかった状態から、多様な生き方や働き方を知り、視界が大きく開けていくわけです。キャリア観は常に上書きされていきます。
早期選考で内定した企業に「入社したい」と思っても、「こんなキャリア選択もあるんだ」と感じる新しい経験をすれば、別の選択肢を検討するようになります。ましてや、大学2年の年明けに感じた「良い企業」の基準が、選考ピーク期となる1年後に変わっていないはずがありません。経験から学ぶチカラが強い学生ほど、変化は大きいと言えます。
常にその時点の最新の考えが、自分にとってのベストです。過去の自分が決めた第一志望は、通過点となっていきます。早すぎるアプローチは、費用対効果が見合いません。これまでも早期化がある時期まで進むと、抑止力が働きはじめ、揺り戻しがおきるという歴史を繰り返してきました。そろそろ、その時期が見えてきたように感じます。
私見ですが、26年卒から27年卒あたりがターニングポイントになると考えています。26年卒採用では「専門活用型インターンシップ」に参加した学生を対象に、選考の前倒しが予定されています(※2)。利用学生は限定的と考えますが、国の就活ルールが早まるわけですから、ここまでは早期化傾向が続くでしょう。その後、徐々に見直し機運が高まるのではないでしょうか。
気になる調査データがあります(※3)。「政府要請の新卒採用スケジュール」に関する企業アンケートですが、「要請を廃止したほうがよい」は34.1%、「(形骸化した)現状のままでよい」が30.4%と、6割以上が就活ルールに意味を見出してはいません。面白いのは、従業員規模が「社員数1001名以上」での結果です。廃止派が43.5%と全体平均より高い一方で、「より強制力のある状態にしたほうがよい」も43.5%と最も高い数字となっています。
抑止力が弱くなった新卒市場は早期化が進み、期間は長期化していきます。この状態に疲弊感を覚える企業が、今後は増えていくのではないでしょうか。そして、ある閾値を超えると、1997年に廃止された就職協定が倫理憲章として復活したように、何かしらの規制を求める声が大きくなるかもしれません。
大きな潮流で言えば、規制の強化と軟化を行ったり来たりしながら、市場全体は自由化に向かうのでしょう。しかし、その変化はゆっくりであってほしいと願っています。経済の早いスピードにあわせて就活ルールを変えていては、学生の負担を大きくします。経済と教育では、流れる時間の速さが違います。
三省合意(※4)における25年卒生からの変更、続く26年卒生以降の新しい動き。これらは産学協議会(※5)が発表した提言がベースになっています。メディアでは「産業界と大学が合意した取り決め」と表現されることが多いのですが、特定の経済団体(経団連)と大学からの提言と言えます。
国の取り決めとしては“部分最適”すぎないか、と考える必要があるのではないでしょうか。文系や理系といった専攻の違い、都市部と地方の地域差、学歴や学校群など、あらゆる属性をふまえた“全体最適”になっているのか。こうした視点を大切に「調和のとれた自由化」を考えたいものです。
来年が、より多くの就活生にとって、好ましいキャリア選択ができる年になりますように・・・。
皆さま、良いお年をお迎えください。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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※1
就職・採用活動に関する要請
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou_yousei/index.html
※2
就活前倒し、新ルール適用を確認(共同通信)
https://www.47news.jp/10239880.html
※3
「政府要請の新卒採用スケジュール」に関するアンケート結果
https://www.hr-doctor.com/news/recruit/new-recruit/news-26054
※4
インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る
取組の推進に当たっての基本的考え方
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220613002/20220613002-1.pdf
※5
採用と大学教育の未来に関する産学協議会
https://www.sangakukyogikai.org/
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