2025.03.04メールマガジン

「初任給30万円時代」についての考察

このところ初任給の引き上げに関するニュースが続いています。

数年前から、じわじわと上がっていましたが、最近は『金融の初任給30万円時代 住信SBIは33万円、3年で5割増』(日本経済新聞1月30日付)、『初任給30万円台、人材争奪戦 ファストリ・三井住友銀、続く売り手市場』(朝日新聞1月9日付)といった見出しが並び、「もう30万円まで上がったの?!」と、急激な変化に戸惑いすら感じます。報道では先鋭的な取り組みを紹介することが多いので、調査データで全体平均を確認してみました。公的調査と民間調査の2つを紹介します。
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●「令和6年職種別民間給与実態調査」人事院 ※1
 220,368円 新卒事務員(大卒)
 225,914円 新卒技術者(大卒)
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●「2024年度 決定初任給調査」産労総合研究所 ※2
 225,457円 一律に初任給が決まっている場合(大卒)
 236,776円 職種やコース別などで格差がある場合の「最高額平均」(大卒)
 213,036円 職種やコース別などで格差がある場合の「最低額平均」(大卒)
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全体平均としたら概ね22~23万円程度です。今春に社会人となる25年卒生の初任給調査(※3)を見ると、71.0%の企業が「引き上げる」と回答していて、その平均引き上げ額は9,114円でした。この数字は回答を拒否した企業は含まれないので、実態よりも数字が上振れしていると考えられます。とすれば、25年卒生の平均は23万円強ぐらいでしょうか。やはり30万円は高いと言えます。

こうした高い初任給を学生はどう感じるのでしょうか。学生コメントでは歓迎する意見が多い一方で、「初任給が高い(高すぎる)と裏があるのではないかと思ってしまう」「仕事がハードだったり、ノルマが厳しかったりしそう」といった意見も散見されます。金銭面の条件が学生の企業選びに影響を与えていることは確かですが、高ければ高いほど嬉しい!という単純な話ではなさそうです。

学生に“収入に対する考え方・スタンス”を訊ねたところ、「定期的に昇給・昇進する」方が良いは66.0%で、「成果に応じて昇給・昇進の幅が大きい」方が良いは34.0%という結果でした(※4)。7割近い学生は、収入に変動が少なく、安定的に収入が上がっていく給与体系を望んでいるようです。「年功序列」を望んでいるとは言い切れませんが、それに近い給与体系を望んでいるように感じます。

補足ですが、「年功序列」という言葉を使って学生に印象を訊ねると、ネガティブな意見が多くなります。自分が成果を上げても、年齢が若いと言うだけで給与が上がらないのは嫌だ、ということでしょう。また「成果主義」という言葉には、成果を上げれば(年齢に関係なく)評価されるという捉え方で、ポジティブな意見が増えます。どちらも、年齢が一番下の新卒人材(自分)にとって不利にならないものを肯定しているに過ぎません。そのため、前述の意識調査とは矛盾したような結果になります。

多くの学生が「変動が少なく、安定的に上がっていく収入」を望んでいるとすれば、高い(高すぎる)初任給に漠然とした不安を感じる気持ちは理解できます。初任給は企業選びにおける比較要素のひとつですが、それよりも賃金カーブを含めた長期的な収入予想の方が、学生にとっては重要なのかもしれません。

初任給以外にも、研修制度やワークライフバランスなど、それぞれに重視するポイントがあります。複数の要素を加味しながら、総合的に志望企業を決めているわけで、初任給の引き上げが新卒採用に与えるプラスの効果は、限定的と言えるでしょう。実際、採用数の向上に効果があったとする企業は37.3%と4割弱にとどまり、「変わらない」56.7%、「低下した」6.0%という結果になっています(※5)。

とはいえ、初任給が平均より大きく下回っていては、志望企業の候補にも入りません。奨学金の返済のため、収入の具体的な条件のある学生もいます。周囲の友人と比べたとき、遜色ない初任給でなければ入社までもっていくのは難しいでしょう。平均金額をクリアした上で、金銭以外の自社の魅力を打ち出していくことが求められています。
〔就職情報研究所 所長 平野 恵子〕
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※1
人事院「令和6年職種別民間給与実態調査」表2
https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/kouho_houdo/toukei/minn/minnhp/minR06_index_00001.html

※2
産労総合研究所「2024年度 決定初任給調査」
https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/chinginseido/shoninkyu/pr2407.html

※3
帝国データバンク「初任給に関する企業の動向アンケート(2025年度)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250214-startingsalary2025/

※4
文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所「新卒採用戦線総括2025」

※5
マイナビ「企業人材ニーズ調査」

企業人材ニーズ調査2024年版


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