「プレエントリー」という採用ステップの変化

毎年この時期は今年度の新卒採用の調査データをまとめ、振り返りをします。
過去3カ年のデータを比較して、特徴的な変化や動向を整理することが多いのですが、直近の変化だけでは、大きなトレンドを見逃しかねません。必要に応じて10～20年程度の変化を追うことを心掛けています。

2024年卒採用で言えば、「プレエントリー」の変化が気になって、過去データを掘り起こしてみました。
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＜プレエントリー平均社数＞
　　　　　　　　　　
・2009卒 ／ 68.0社 （求人倍率　2.14倍）（ 4月選考開始）
・2010卒 ／ 74.5社 （求人倍率　1.62倍）　　　↓
・2011卒 ／ 95.6社 （求人倍率　1.28倍）　　　↓
・2012卒 ／ 93.1社 （求人倍率　1.23倍）　　　↓
・2013卒 ／ 85.3社 （求人倍率　1.27倍）（12月広報開始、4月選考開始）
・2014卒 ／ 82.4社 （求人倍率　1.28倍）　　　↓
・2015卒 ／ 81.6社 （求人倍率　1.61倍）　　　↓
・2016卒 ／ 54.4社 （求人倍率　1.73倍）（ 3月広報開始、8月選考開始）
・2017卒 ／ 42.3社 （求人倍率　1.74倍）（ 3月広報開始、6月選考開始）
・2018卒 ／ 38.9社 （求人倍率　1.78倍）　　　↓
・2019卒 ／ 31.3社 （求人倍率　1.88倍）　　　↓
・2020卒 ／ 29.3社 （求人倍率　1.83倍）　　　↓
・2021卒 ／ 29.3社 （求人倍率　1.53倍）※　　↓
・2022卒 ／ 31.2社 （求人倍率　1.50倍）　　　↓
・2023卒 ／ 30.8社 （求人倍率　1.58倍）　　　↓
・2024卒 ／ 27.9社 （求人倍率　1.71倍）　　　↓
※2020年6月調査
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全体動向で見ると、プレエントリー平均社数は「求人倍率」の影響を大きく受けていることが分かります。求人倍率が高いと、企業からのアプローチが増え、少ないプレエントリーで内定を得ることができる。求人倍率が低いと、学生からのアプローチは増え、プレエントリーは上昇する。2009～2012年卒の社数増加は、これで説明が付きます。

2013～2015年卒は、リーマンショックによる求人倍率の低下が底を打ち、回復期に入った時期です。プレエントリー社数は80～85社の間で、ゆっくりと減少しています。また、広報開始を12月と定めたことで、大手情報サイトがオープンする12月上旬に、プレエントリーが一極集中する就活スタイルでした。

2016年卒では、前年の81.6社から一気に54.4社まで下がっています。広報開始が12月から3月まで、選考開始が4月から8月まで、後ろ倒しになったことが主な原因です。すでに採用環境は売り手（学生優位）市場になっていたので、（従来と比べて）3月という遅いスタートに企業の焦りは高まります。8月を待たずに選考を開始する企業が多発し、7月下旬の内定率は6～7割という状況でした。選考開始のタイミングを待たずに、面接へと進んでいく流れが、この時期から顕著になりました。

2017年卒から、現行の3月広報開始・6月選考開始となりましたが、6月を待たずに面接を進めていくスタイルは拡大していきます。同時にプレ期の活動が活発化します。3月広報開始より前からプレエントリーを開始する傾向は、2018年卒あたりから顕著になりました。広報開始前の広報が、選考開始前の選考が目立ちはじめ、早期選考という言葉が定着していきます。

2022年卒は新型コロナの影響で、一時的に求人倍率が下がり、プレエントリーは増加に転じました。その後、求人倍率は回復し、2024年卒では1.71倍まで上昇。少子化による若年層人材の減少も危機感を煽り、企業からのアプローチは熱を帯びていったようです。プレエントリーは初めて30社を切り、27.9社となりました。

企業アプローチが過熱すれば、学生は慎重に対応する必要が生じます。プレエントリーすると、プレ期であっても採用選考に関する案内が来て、エントリーシートなどの準備に時間を要します。

以前のような「とりあえずエントリー」感覚では対処しきれません。一定期間はじっくりと企業を比較検討して、あるタイミングから本選考に進んでいく・・・といった時間の余裕はもうありません。

その結果、コスパとタイパを重視した「応募したいと思える企業にだけエントリー」という感覚が強くなっています。「プレエントリー」という採用ステップは、10年前とは全く違うものになったと言えるでしょう。
〔就職情報研究所　所長　平野　恵子〕